アジア開発銀行(ADB)とモンゴル政府は12月19日、同国の広大な草地を回復させ、国際的な炭素市場での取引に向けた炭素クレジットを創出するパイロット事業を開始した。
本事業は、持続可能な放牧管理を通じて二酸化炭素(CO2)の吸収量を高めると同時に、深刻化する砂漠化の防止と地域住民の生計多角化を目指す。
「草地炭素回復プロジェクト」と命名されたこの試行事業は、家畜の放牧手法や草地管理の改善によって、質の高いカーボンクレジットを生成することを主眼に置く。創出されたカーボンクレジットによる収益を劣化した放牧地の修復資金に充てることで、砂漠化を抑制し、極端な気象事象に対する同国の適応能力を強化する計画だ。
モンゴルの草地は国の文化、経済、生態系の根幹を成しているが、気候変動と過放牧により脆弱化が進んでいる。ADBのモンゴル駐在事務所代表であるシャノン・コーリン氏は「本事業は、気候資金や炭素資金が草地の回復と農村のレジリエンスにどう貢献できるかを実証するものだ。ここで得られる知見は、将来の大規模なカーボンクレジット事業の設計や、国際市場への参画を後押しするだろう」と述べた。
本事業の具体的な活動として、ADBはモンゴル政府や地元の遊牧民コミュニティと協力し、放牧管理の改善による炭素固定能力を定量化する。国際的なカーボンクレジット基準に準拠した形で、土壌有機炭素(SOC)の測定手法をテストし、監視・報告・検証(MRV)体制を構築する。また、民間セクターの参画を促すとともに、伝統的な遊牧民への正当な利益分配メカニズムについても検討を進める。
今回の取り組みには、モンゴルの食糧・農業・軽工業省に加え、環境・気候変動省、および経済開発省が連携して参画している。これは、パリ協定第6条に基づく国際的な炭素市場への準備を整えるとともに、現在策定中である「気候変動法」の裏付けとなるデータを提供する狙いがある。同法は、モンゴル国内におけるカーボンクレジットの発行と規制を司る法的枠組みとなる見通しだ。
1966年に設立されたアジア開発銀行は、現在69の加盟国・地域(うち域内50)を擁する多国間開発銀行として、持続可能な成長とインフラ整備を支援している。今回のパイロット事業を通じて得られる成果は、次期国会での審議が予定されている気候変動関連の法整備に直接反映される予定であり、モンゴルがネイチャーベース(自然由来)の炭素除去分野において国際的な供給源となるための試金石となる。
本プロジェクトは、単なる環境保全事業ではなく、モンゴルがパリ協定第6条下での「カーボンクレジット供給国」として立ち上がるための戦略的な布石といえる。
特に注目すべきは、これまで技術的なハードルが高かった土壌有機炭素(SOC)のMRV体制構築に踏み込んだ点だ。
日本の事業者にとっては、二国間クレジット制度(JCM)を通じたモンゴルとの既存の協力関係に加え、こうしたADB主導の標準化の動きが、将来的なカーボンクレジット調達の透明性や信頼性を高める好材料となるだろう。広大な土地を持つモンゴルでの成功は、同様の課題を抱える中央アジア諸国への横展開のモデルケースとなる可能性を秘めている。


