産業用炭素価格付けの基準を2026年に強化へ カナダ政府が「気候競争力戦略」の意見公募を開始

村山 大翔

村山 大翔

「産業用炭素価格付けの基準を2026年に強化へ カナダ政府が「気候競争力戦略」の意見公募を開始」のアイキャッチ画像

カナダの環境・気候変動省(ECCC)は2025年12月19日、産業用炭素価格付けの国家最低基準である「フェデラル・ベンチマーク」の厳格化に向けた意見公募を開始した。

この取り組みは、2026年に予定されている基準改定に反映され、国内の全産業における排出削減の加速と、脱炭素化投資への確実性を提供することを目的としている。政府は2025年度予算で掲げた「気候競争力戦略」の中核として、企業が国際市場での競争力を維持しながら、クリーン技術への転換を図るためのインセンティブを強化する方針だ。

今回の見直しは、大規模排出事業者に対して排出削減の動機付けを強める一方で、カーボンリーケージのリスクから産業を保護しつつ、低コストでの移行を支援することを目指している。

適切に設計された炭素市場は、クリーンな生産活動への投資を通じて企業が収益を上げる機会を創出し、投資の長期的な価値を担保する役割を果たす。カナダのクリーン技術産業は経済成長の原動力となっており、2023年には国内総生産(GDP)に406億カナダドル(約4兆4,660億円)貢献し、22万4,000人以上の雇用を創出した。

カナダ政府は、明確で予測可能な長期方針を示すことで、投資家に対して事業の予見性を与え、世界のクリーンエネルギー転換において自国産業をリードさせる考えだ。

独立機関の調査によれば、産業用炭素価格付けは、家計への影響を最小限に抑えつつ、排出削減目標を達成するための最も費用対効果の高い政策とされる。カナダ気候研究所の推計では、国内で進められている総額570億カナダドル(約6兆2,700億円)規模の70に及ぶ主要な脱炭素化プロジェクトが、現在の炭素価格制度によって支えられている。

環境・気候変動・自然相のジュリー・ダブルシン(The Honourable Julie Dabrusin)氏は「カナダの産業界は、最もクリーンで効率的な生産方法を用い、世界が求める製品を提供することでリードすべきである。産業用炭素価格付けはそのための不可欠なツールだ」と述べた。さらに同氏は、カナダの広範な気候・エネルギー目標の達成に向けて、州や準州と緊密に連携していく意向を表明した。

世界銀行のデータによれば、現在世界中で113の炭素価格付けメカニズムが導入されており、世界全体の排出量の約28%をカバーしている。カナダ政府は、今後数カ月間にわたり各州や関係者との協議を継続し、2026年からの新基準適用に向けた詳細を固める予定だ。

カナダによる今回のベンチマーク強化は、カーボンクレジット市場における「需要の質と量」を同時に底上げする極めて重要な動きだ。

特に、産業用炭素価格制度(OBPS)下でのカーボンクレジット需要が高まることで、DACなどのCDR技術に対する価格予見性が高まり、投資がさらに加速すると予測される。

日本企業にとっても、カナダ国内でのプロジェクト参画や、同様の制度設計が進む日本版GX-ETSの将来像を占う上で、2026年の新基準策定プロセスは注視すべき指標となるだろう。

参考:https://www.canada.ca/en/environment-climate-change/news/2025/12/government-of-canada-launches-engagement-to-strengthen-industrial-carbon-pricing-and-secure-major-clean-energy-investments.html