森林保全の算定精度をAIで高度化 Equitable Earthが新基準「M002」を公開

村山 大翔

村山 大翔

「森林保全の算定精度をAIで高度化 Equitable Earthが新基準「M002」を公開」のアイキャッチ画像

カーボンクレジットの国際標準化団体であるエクイタブル・アース(Equitable Earth)は2025年12月19日、森林保全活動による排出削減を評価するメソドロジー「M002」のベースライン設定モジュールを公開した。

本モジュールは、人工知能(AI)による機械学習と衛星データを活用し、非計画的な森林減少・劣化の回避(AUDD)に関する炭素吸収量の算定精度を大幅に高めるものである。同団体は、森林減少・森林劣化からの排出削減(REDD+)プロジェクトにおける透明性と信頼性の向上を目指す。

今回公開されたベースライン設定モジュールは、森林保全プロジェクトにおける「森林が維持されなかった場合のシナリオ(ベースライン)」を算出するための重要なコンポーネントとなる。最大の特徴は、従来はプロジェクト開発者が行っていた炭素会計とリスクモデリングを、エクイタブル・アース側が内部で一括管理する点にある。これにより、開発者による過剰なクレジット発行という利益相反を防ぎ、プロジェクト間の整合性を確保する。

技術面では、機械学習を活用して地上バイオマス(AGB)の変化をピクセル単位で予測する仕組みを導入した。衛星画像やバイオマスデータセット、高度なアナリティクスを組み合わせ、毎年更新されるリスクマップを提供。プロジェクト開始時に1年以上前の古いデータを使用することを禁じ、5年ごとにベースラインを再評価する厳格な運用を求める。これにより、これまでの手法では捉えきれなかった「森林劣化」による炭素損失も詳細に追跡可能となった。

また、本基準は先住民および地域社会(IPs and LCs)の権利保護と利益還元を中核に据えている。ボランタリー炭素市場の整合性理事会(ICVCM)が定める基準にも準拠しており、高い環境整合性と社会的正義の両立を図る。同団体は、2023年に結成された125名以上の先住民リーダーや科学者による連合の知見を継承し、次世代の森林保全アプローチとして本件を位置づけている。

エクイタブル・アースは、2026年初頭に開発者やステークホルダーを対象とした公開技術ウェビナーを開催する予定である。この場でリスクマップの具体的な活用方法や、実務上のサポート体制について詳細を明らかにする。現在は公式サイト上で、ベースライン設定モジュールに関連するすべてのドキュメントが閲覧可能となっている。

今回の発表は、REDD+市場が直面してきた「過剰発行」や「算定の不透明さ」という信頼性の危機に対する、技術的な回答と言える。特に、算定プロセスを開発者から切り離して標準化団体が中央集権的に管理する手法は、クレジットの質を担保する上で極めて強力な規律となるだろう。

日本の企業にとっても、ICVCM準拠の高品質なクレジット調達は避けて通れない課題であり、AIによる定量的エビデンスを備えた本基準の動向は、今後の調達戦略における重要な指標となるはずだ。

参考:https://www.eq-earth.com/methodologies/m002/m002-overview