カナダ・アルバータ州で2025年12月19日、丸紅が出資するバイソン・ローカーボン・ベンチャーズ(Bison Low Carbon Ventures Inc.)が、メドウブルック炭素貯留ハブ(Meadowbrook Carbon Storage Hub)の第一段階操業を開始した。
本事業は日本企業が参画する炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトとして、第三者から回収した二酸化炭素(CO2)を有償で地下に貯留する初の商用事例となる。
今回の操業では、同じくアルバータ州に位置するディープ・スカイ(Deep Sky)の直接空気回収(DAC)施設「ディープ・スカイ・アルファ(Deep Sky Alpha)」で回収されたCO2を、バイソンの注入井まで輸送し、地下の帯水層へ永続的に封じ込める。メドウブルックは、アルバータ州政府が2022年に選定した25のCCSハブ候補のうち、すべての規制当局の承認を得て実操業に移行した最初のプロジェクトとなった。
アルバータ州は、豊富な地質データと成熟した規制枠組みを背景に、世界で最もCCS開発が活発な地域の一つとして知られる。州政府は2022年の競争入札を経て25件の探査許可を発行したが、バイソンはそのうち2件の権益を確保しており、今回のメドウブルックがその先陣を切る形となった。
丸紅とバイソンは、この第一段階で注入性能や長期的な貯留の健全性を検証し、商業展開の基盤を固める方針だ。検証結果をもとに他のCO2排出源との交渉を加速させ、将来的にはアルバータ州北東部の工業地帯などから排出されるCO2を年間最大300万トン規模で受け入れるマルチユーザー型の貯留ビジネスを目指す。
国際エネルギー機関(IEA)が発表した「世界エネルギー展望2025(World Energy Outlook 2025)」によると、世界のCO2回収量は2024年の4,300万トンから、2035年には1億6,000万トン、2050年には3億トンへと急拡大する見通しだ。特に排出削減が困難なハード・トゥ・アベート(Hard-to-Abate)産業にとって、CCSは不可欠な脱炭素技術と位置づけられている。
バイソンには丸紅のほか、みずほ銀行が2024年4月に「トランジション投資枠」を通じて500万カナダドル(約5億7,000万円)を出資している。日本連合が北米の先進的な規制環境下で実績を積むことは、日本国内でのCCS事業化やクレジット創出に向けた重要な試金石となる。
両社は今後、商用規模への拡大に向け、2026年以降の追加の顧客獲得を目指す。
今回のニュースは、日本の商社が「権益確保」の段階から「サービスとしての貯留(Storage as a Service)」という実益フェーズに踏み出した重要な転換点である。特に、回収源がDACである点は注目に値する。これは単なる排出削減ではなく、大気中からCO2を取り除くネガティブエミッションとしての価値を持つ。
アルバータ州が他地域に先んじて操業を開始できた理由は、石油・ガス開発で培われた既存インフラと、2022年から先行して整備された明確なハブ認可制度にある。日本でもJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)による先進的CCS事業の選定が進んでいるが、今回の丸紅の事例は、制度が整った海外市場で先に商用モデルを「逆輸入」するための貴重なデータセットになるだろう。


