NZ政府、CCSを排出量取引制度に統合へ 「1トン貯留=1クレジット」で事業化加速

村山 大翔

村山 大翔

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ニュージーランド政府は2025年12月、炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトを同国の排出量取引制度(NZ ETS)に正式に組み込み、法的裏付けのあるクレジットを付与する新制度案(レジーム)を発表した。

これまで森林吸収によるオフセットに依存してきた同国の気候変動戦略が、地中貯留という工学的除去(エンジニアド・リムーバル)へ大きく舵を切る転換点となる。政府は2026年に関連法案を議会に提出する予定だ。

ETS価格連動で事業の採算性を確保

今回公表された政策文書「炭素貯留レジーム(A Carbon Storage Regime)」によると、事業者がCO2を回収し、地中の地質学的形成層へ恒久的に貯留した場合、その削減・除去量に応じてNZ ETSの排出枠(ニュージーランド・ユニット:NZU)が付与される

具体的には、1トンのCO2貯留に対し1単位のNZUが付与される仕組みとなる見通しだ。事業者は付与されたNZUを自社の排出義務の相殺に充てたり、市場で売却して収益を得たりすることが可能になる。

2025年後半時点で、NZUの取引価格はおよそ36.50ニュージーランド・ドル(約3,300円)で推移している。これまで多額の初期投資が必要であることから経済的に困難とされてきたCCSプロジェクトに対し、変動する炭素価格という明確な収益インセンティブを提供することで、民間投資を呼び込む狙いがある

枯渇ガス田から玄武岩まで広範に対象化

貯留サイトの対象は、陸上(オンショア)および沖合(オフショア)の双方を含み、以下のような地質構造が想定されている

  • 深部帯水層
  • 枯渇した石油・ガス貯留層
  • 採掘不可能な石炭層
  • 玄武岩層

特に、既存の石油・ガス生産井を利用できる可能性があり、ガス生産者にとっては、CCS展開によってエネルギー安全保障への貢献とETS収益の両立が見込めるとしている

厳格な監視と「責任移管」の出口戦略

制度設計の核心は、長期間にわたるCO2の漏洩リスク管理にある。事業者は環境保護局(EPA)から許可を取得する必要があり、操業中および閉鎖後も厳格なモニタリングが義務付けられる

万が一、貯留したCO2が漏洩した場合、事業者はその漏洩量に相当するNZUの返還(Surrender)義務を負うほか、環境修復コストも負担しなければならない

一方で、企業にとって永続的な責任は参入障壁となるため、政府は「条件付きの責任移管」プロセスを提案している。サイト閉鎖から最短で15年が経過し、CO2が予測通りに挙動し安定していると大臣が判断した場合、漏洩に対する賠償責任やETS返還義務が免除され、以降の監視責任は政府(クラウン)へ移る可能性がある。

本制度案は、2026年に気候変動大臣によって法案として提出され、2027年の成立を目指す。法案通過後は、専用の規制当局による許認可プロセスが開始される見込みだ

CCS事業化への「線」を読む

今回のニュージーランドの動きは、単なる一国の制度変更にとどまらず、世界の脱炭素市場における「森林から技術へのシフト」を象徴している。

「自然」から「工学」へ

ニュージーランドはこれまで植林による吸収源確保を重視してきたが、土地利用の限界や森林火災による逆排出リスクが顕在化していた。CCSをETSの正式な「除去クレジット」として認めることで、より永続性の高い炭素除去へ資金を誘導しようとしている。

日本企業への示唆

日本もJ-クレジット制度でCCSを対象としているが、ニュージーランドの制度は「閉鎖後15年での責任移管」という明確な出口戦略(国家によるリスク引き受け)を提示した点が画期的だ。これは、CCS事業参入を検討するエネルギー企業や商社にとって、事業リスクを定量化する上で極めて重要なベンチマークとなるだろう。

    政府がリスクの最終引き受け手となる意思を示したことで、同国周辺でのCCSハブ構想や、国際的な炭素輸送・貯留ネットワークへの接続が現実味を帯びてくる。

    参考:https://environment.govt.nz/assets/publications/climate-change/A-carbon-storage-regime.pdf