商船三井、CDRクレジット認証機関のIsometricと戦略的提携 「CO2の残存排出」相殺へ科学的根拠に基づくCDR活用へ

村山 大翔

村山 大翔

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海運大手の株式会社商船三井(MOL)は12月17日、炭素除去(CDR)クレジットの認証・発行を行うアイソメトリック(Isometric)と戦略的パートナーシップを締結したと発表した。2050年のネットゼロ達成に向け、自社努力では削減困難な「残存排出」をオフセットする手段として、科学的厳格性が保証された高品質なCDRクレジットの調達体制を強化する。

今回の提携により、アイソメトリックは同社が定める厳格な基準「アイソメトリック・スタンダード」に基づき、商船三井向けにCDRクレジットを発行・管理する。商船三井は、アジア最大規模となる1万トンの風化促進由来のクレジット購入契約をアルト・カーボン(Alt Carbon)と締結しているが、この取引においてもアイソメトリックがレジストリとして追跡・管理を担っている。今回の戦略的提携は、こうした個別の協業を包括的なパートナーシップへと発展させたものだ。

商船三井の炭素ソリューション開発ユニット長である藤橋大輔氏は、「高品質なCDRクレジットは、ネットゼロへの道程における残存排出に対処するための重要な要素だ」と指摘した上で、「検証に対する厳格かつ透明性のあるアプローチを評価し、アイソメトリックと提携できることを嬉しく思う」と述べた。

一方、アイソメトリックの創業者兼CEOであるイーモン・ジュバウィ(Eamon Jubbawy)氏は、「この提携は、透明で科学的に厳密な炭素除去への需要の高まりと、日本市場においてアイソメトリックが『選ばれるレジストリ』としての地位を確立したことを裏付けるものだ」とコメントした。

アイソメトリックは、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)において急速に存在感を高めている新興のスタンダード兼レジストリだ。現在、風化促進や海洋アルカリ性向上、バイオ炭、植林など17種類のCDR技術に関するプロトコル(手順書)を策定している。特筆すべきは、同社の6つのプロトコルが、市場の品質基準を定めるICVCMによる「コア・カーボン・プリンシプル(CCP)」ラベルの承認を取得している点だ。これにより、アイソメトリックが発行するクレジットは国際的な高品質基準を満たしているとみなされる。

また、同社は2025年3月にテクノロジーを活用した検証プラットフォーム「Certify」を立ち上げている。これにより、従来は年単位を要していたクレジット発行プロセスを月単位に短縮し、CDR開発事業者が早期に収益化できる環境を整備するなど、市場のボトルネック解消にも取り組んでいる。

本件は、日本の大手企業が「とりあえずのオフセット」から「品質重視のCDR調達」へと明確に舵を切った重要な事例である。特に海運業は脱炭素化が技術的に困難な「Hard-to-Abate」産業であり、どうしても消せない排出(残存排出)が残る。

この処理において、安価だが品質に疑義のあるクレジットではなく、ICVCMの承認を受けるような厳格な基準(アイソメトリック)を選んだことは、グリーンウォッシュ批判を回避しつつ実質的な気候変動対策を行うという強い意志表示と言える。

日本市場において、高品質CDRの需要と供給を結びつけるインフラとして、アイソメトリックのような次世代レジストリの重要性は今後さらに増していくだろう。

参考:https://isometric.com/writing-articles/mitsui-o-s-k-lines-and-isometric-enter-strategic-partnership