オーストラリア政府傘下のグリーンバンクであるクリーンエネルギー金融公庫(CEFC)と英国のコンサルティング会社バリンガ(Baringa)は12月11日、同国のデータセンター産業に関する共同レポートを発表した。
報告書によると、人工知能(AI)需要の爆発的増加により、2035年までにデータセンターが全電力消費の最大11%を占める見通しであり、適切な再生可能エネルギー投資が行われない場合、年間600万トンの二酸化炭素(CO2)排出増につながるリスクがあると警告している。
排出量増加と電力価格高騰のリスクシナリオ
レポート『適切なバランスの確保:データセンターの成長とエネルギー転換(Getting the balance right: Data centre growth and the energy transition)』は、AIとクラウドコンピューティングの急速な普及により、豪州国内のデータセンター容量が現在の1.35ギガワット(GW)から、2035年には4.7GW〜7.4GWへと約4倍に拡大すると予測している。
しかし、この急成長に対し、再生可能エネルギーと蓄電設備への投資が追いつかなかった場合の「不作為シナリオ」は深刻だ。レポートの試算によれば、新たなクリーン電源が供給されない場合、2035年までにニューサウスウェールズ州の卸電力価格は26%、ビクトリア州では23%上昇する可能性がある。さらに、送電網全体のCO2排出量は14%増加し、年間600万トンの追加排出が発生すると指摘された。これは脱炭素化を目指す同国にとって看過できない負荷となる。
巨額のインフラ投資と経済効果
このセクターへの投資額は、今後10年間で850億豪ドルから1,350億豪ドル(約8兆2,000億円〜13兆円)に達すると見込まれている。
CEFCのインフラ部門責任者であるジュリア・ヒンウッド氏は、「データセンターは現代デジタル経済を動かす重要なインフラだ。適切な政策設定と再エネ発電、蓄電への早期投資があれば、豪州はクリーンなデジタルインフラのリーダーになれる」と述べ、規制と投資の重要性を強調した。
また、データセンターインフラによって実現されるAIと自動化技術は、2030年までに国内総生産(GDP)に最大6,000億豪ドル(約58兆円)の貢献をする可能性があると試算されている。
脱炭素化への処方箋「グリーンデータセンター」
レポートは、排出増と価格高騰を回避しつつ産業成長を維持するための具体的な解決策として、2035年までに3.2GWの再生可能エネルギー発電と1.9GWのバッテリー蓄電容量を追加する必要があると結論付けた。これにより、データセンターの負荷増による価格上昇を抑制し、追加的な排出を実質的に「中和」することが可能になるとしている。
さらに、投資家に対しては、ESG要因を重視した「グリーンデータセンター」への資金配分を求めている。具体的には、オーストラリア持続可能な金融研究所(ASFI)の基準に整合させ、100%再生可能エネルギーで稼働するプロジェクトなど、明確な環境成果を追求する案件への優先的な投資が推奨されている。
政策的な協調と技術革新
レポートは、計画されているデータセンター容量の約半数がシドニーに集中している現状を指摘し、送電網への負荷を分散させるための国家レベルでの調整が必要だと訴えている。
政府に対しては以下の4つの優先事項を提言した。
- 立地調整
送電容量と再エネのポテンシャルがある地域への投資誘導。 - クリーンエネルギーの実現
データセンターによる再エネ調達や引き受けを促進するインセンティブ設計。 - 透明性の向上
将来の電力需要とプロジェクトパイプラインに関するデータの可視化。 - システムセキュリティ
大規模な電力負荷を安全かつ柔軟に送電網へ統合する仕組みの構築。
ヒンウッド氏は、「効率性と蓄電技術の革新により、データセンターは単なる電力の大量消費者ではなく、クリーンエネルギーシステムの能動的な参加者へと再定義されつつある」と指摘した。
オーストラリアにおけるデータセンターの急増は、再エネ資源が豊富な同国において、デジタルインフラと脱炭素化をいかに両立させるかという世界的な課題の試金石となるだろう。

