ギリシャを拠点とする炭素貯留開発企業のエンアース(EnEarth)は12月9日、ドイツの建材大手ハイデルベルグ・マテリアルズ(Heidelberg Materials)と、ブルガリアにおけるCO2輸送・貯留事業に関する独占交渉を行う条件概要書(タームシート)に署名したと発表した。本提携は、ハイデルベルグが進める「ANRAVプロジェクト」の一環であり、ブルガリアのセメント工場から排出される年間80万トンのCO2を回収・貯留する東欧初のフルチェーンCCUS(CO2回収・有効利用・貯留)プロジェクトとなる。
東欧産業界の脱炭素化に向けた戦略的提携
今回の合意により、エンアースはハイデルベルグ・マテリアルズがブルガリア・バルナ地域で操業するデヴニャ(Devnya)セメント工場向けの貯留オペレーターとして、輸送および恒久貯留サイトの共同開発に向けた協議に入る。
本プロジェクト「ANRAV」は、欧州連合(EU)のイノベーション基金から総額1億9000万ユーロ(約304億円)の資金提供を受けており、そのうち3800万ユーロ(約61億円)が貯留サイトの開発に割り当てられている。デヴニャ工場で回収されたCO2は、施設近隣の陸上貯留サイトへと輸送され、恒久的に隔離される計画だ。
エンアースの炭素貯留責任者であるニコラス・リガス氏は、「このプロジェクトの成功は、環境、ビジネス、そして地域社会に利益をもたらすと確信している」と述べ、同社がギリシャのプリノス(Prinos)で進める主力CCSプロジェクトの知見が活かされる点を強調した。
枯渇ガス田活用のノウハウを展開
エンアースは、東地中海地域で石油・ガス開発(E&P)を手掛ける英系エネルギー企業エナージアン(Energean)の完全子会社である。同社は、枯渇した石油・ガス田を効率的な炭素貯留ハブへと転換する技術に強みを持ち、地中海および南東欧地域の「Hard-to-Abate(排出削減が困難な)」産業のネットゼロ支援をミッションに掲げている。
一方、ハイデルベルグ・マテリアルズは、世界50カ国以上で展開するセメント・コンクリート業界の巨人であり、ブルガリア国内でもデヴニャ工場などを通じて主要な市場地位を占めている。同社のデヴニャ工場責任者であるミハイル・ポレンダコフ氏は、「エンアースとの協働は、ANRAVプロジェクトの開発を加速させる」と期待を寄せた。
2030年の稼働を目指す
両社は今後、正式な契約締結と規制当局の承認を経て、2030年までの稼働開始を目指す。実現すれば、東欧地域における最初の大規模なCCUS実装例となり、産業クラスターの脱炭素化モデルとして注目されることになる。

