関西大がCO2分離回収の「耐久性とコスト」課題を解決 安価なゼオライトで「ゲート型吸着」を実現

村山 大翔

村山 大翔

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関西大学環境都市工学部の樋口雄斗助教とカーボンニュートラル研究センターの田中俊輔教授らの研究グループは、安価で堅牢な多孔質材料であるゼオライトを用い、CO2を効率的に分離回収する新たな「ゲート型吸着」機能の開発に成功した。従来は高価なMOF(金属有機構造体)特有の現象とされてきた分子捕捉機能を、イオン移動の制御によって汎用材料で実現したもので、次世代のCCS(炭素回収・貯留)技術におけるコスト低減の切り札として期待される。

本成果は2025年11月29日、米国化学会(ACS)の国際学術雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。

イオン移動による「堅牢かつ柔軟」な吸着メカニズム

今回の発見における最大の技術的革新は、構造変化を伴わずにCO2を選択的に取り込むメカニズムを確立した点にある。

従来、特定の分子のみを取り込む「ゲート型吸着」は、ノーベル化学賞受賞者である北川進・京都大学特別教授らが切り拓いたMOF(金属有機構造体)の独壇場であった。MOFは骨格構造自体が柔軟に変形してターゲット分子を包み込む優れた性質を持つが、有機物を含むため熱や水に弱く、製造コストが高い点が大規模な産業利用への課題とされていた。

対して、今回関西大学のグループが採用したゼオライトは、無機物であり熱的・化学的に極めて安定しているが、その骨格は「硬い」ため、これまでゲート機能を持たせることは不可能と考えられてきた。

研究グループは、ゼオライトの細孔内にある「カチオン(陽イオン)」に着目した。一定の圧力がかかるとカチオンが位置を変え、その隙間にCO2が入り込む現象を解明。骨格自体を変形させることなく、内部のイオン移動だけでMOFと同様の高度な吸着制御を実現したのである。

CCS普及の壁「水蒸気」と「コスト」を克服

この新技術は、カーボンクレジット市場や脱炭素産業にとって重要な意味を持つ。工場や焼却施設から排出される排ガスには通常、多量の水蒸気が含まれている。従来の多くの吸着材は水に弱く、CO2回収の前段階で除湿工程が必要となり、これがエネルギーロスとコスト増の要因となっていた。

今回開発されたゼオライトによるシステムは、以下の点で既存技術を凌駕する可能性がある。

  • 耐水性と耐久性
    堅牢なゼオライト構造により、水蒸気を含む排ガス下でも性能を維持できる可能性が示唆されており、前処理プロセスの簡素化が見込める。
  • 省エネ性能
    わずかな圧力差で吸着・脱着が可能なため、回収運転にかかるエネルギーコストを大幅に削減できる。
  • 装置の小型化
    高い吸着性能により、装置全体のコンパクト化が可能となる。

中小規模排出源へのCCS導入に光

カーボンニュートラルの実現には、発電所などの大規模排出源だけでなく、数が多い中小規模の工場からのCO2回収が不可欠である。しかし、従来の化学吸収法などの装置は巨大かつ高額であり、中小施設への導入は進んでいなかった。

本技術により、安価で丈夫、かつ小型化可能なCO2回収装置が実現すれば、これまでコスト面でCCS導入を断念していた中小規模の排出源が、新たなカーボンクレジット創出の場へと変わる可能性がある。

田中教授は今回の成果について、「MOF研究が切り拓いた『ゲート型吸着』の概念を、産業材料として強みを持つゼオライトで実現した」と位置づけ、「CO2回収技術の社会実装を力強く後押しするものになる」と自信を見せている。今後は企業との共同研究を通じ、実用装置の開発と材料設計の最適化を進める方針だ。

参考:https://www.kansai-u.ac.jp/ja/about/pr/pressrelease_top/2025/12/post_85999.html