欧州海洋委員会がCOP30で警告 「海洋CDR」の大規模展開に科学的根拠なし

村山 大翔

村山 大翔

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欧州の海洋科学政策を主導する欧州海洋委員会(EMB)は2025年11月25日、ブラジルで開催中の「国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)」において、新たな報告書を発表した。同報告書は、現時点で安全かつ効果的と断定できる「海洋二酸化炭素除去(mCDR)」技術は存在しないと結論付け、確固たる「測定・報告・検証(MRV)」の枠組みが確立される前にカーボンクレジットの創出や大規模展開を進めることに対し、強い懸念を表明した。

MRVの欠如と環境リスク

本報告書の作成を主導したノルウェー大気研究所(NILU)およびノルウェー科学技術大学(NTNU)のヘレーネ・ムリ上級研究員を中心とする専門作業部会は、既存のmCDRに関する全データを精査した。その結果、海藻養殖、沿岸生態系の修復、海洋アルカリ性の向上、あるいは人工的なCO2吸収システムといった主要な技術群のいずれにおいても、長期的な有効性と生態系への影響に関する確証が得られていないことが明らかになった。

報告書は、十分な証拠と評価を欠いたまま技術を大規模に展開することは、「気候への便益よりも、むしろ害悪をもたらす可能性がある」と警告している。

カーボンクレジット市場への警鐘

カーボンクレジット市場にとって最大の課題として指摘されたのが、信頼性の高い「除去量の測定」手法の不在である。 研究チームによると、現在の科学レベルでは以下の重要な要素を正確に定量化する方法が確立されていない。

  • 各手法によって実際に除去できるCO2の量
  • 除去されたCO2が貯留され続ける期間(耐久性)
  • 将来的に大気中へ再放出されるリスク(可逆性)

それにもかかわらず、一部の事業者はすでにmCDR活動に基づくカーボンクレジットを販売しており、市場形成が先行している現状がある。報告書は、こうしたカーボンクレジットが「環境に対して誤解を招く、あるいは有害である可能性がある」と指摘し、科学的裏付けのないカーボンクレジット取引が横行する現状に釘を刺した。

政策提言と今後の展望

EMBは、mCDRがあくまで排出削減の「補完的手段」であると位置づけた上で、大規模展開の前に厳格かつ透明性のあるMRVルールの策定が不可欠であると強調した。 報告書「Future Science Brief No. 13」は、政策立案者や資金提供者に対し、知識のギャップを埋めるための基礎研究への投資と、標準化されたMRVプロトコルの確立を急ぐよう提言している。

日本国内でもブルーカーボンなどの海洋を活用した脱炭素技術への注目が高まっているが、今回の欧州からの提言は、商業化を急ぐ前の「科学的な質」の担保がいかに重要であるかを、改めて浮き彫りにした形だ。

参考:https://www.marineboard.eu/publications/MRV_for_mCDR