三井船舶、アジア最大のERWオフテイク契約のカーボンクレジット発行 インドのアルトカーボンがIsometricでの発行

村山 大翔

村山 大翔

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11月15日、インドのディープテック企業アルトカーボンは、三井船舶(MOLグループ)と締結した10,000トンのCO2除去(CDR)契約に基づき、岩石強化風化(ERW)手法によるアジア最大規模のカーボンクレジットを発行した。インド・ダージリン地域で進む「ダージリン・リバイバル・プロジェクト」を基盤とし、契約締結から8カ月での初回発行となる。カーボンクレジットは高精度計測を求めるアイソメトリック(Isometric)のプロトコルに準拠して認証された。

今回の初発行は、MOLが掲げる「BLUE ACTION 2035」に沿ったもので、2035年までにGHG排出原単位を約45%削減し、2050年のネットゼロ達成を目指す中で、燃料転換や省エネ施策に加え、長期的なCO2除去(CDR)の検証を進める狙いがある。MOLのカーボン・ソリューション開発ユニットの藤橋大介氏は「8カ月での発行は、ERWという新しいCDRの実行力を示す。今後のクレジット供給への信頼が高まった」と述べた。

カーボンクレジットの発行源となるダージリン・リバイバル・プロジェクトは、茶園や周辺の稲作地帯など退行した土壌を対象に、廃バサルト岩粉を散布して風化反応を促進し、雨水中に溶けたCO2を重炭酸塩として固定する仕組みだ。固定された炭素は河川を経て海洋へ移動し、最終的にサンゴや貝殻の炭酸カルシウムとして1万年以上保持されるとされる。

アルトカーボンは、現地の気象観測網、土壌・河川化学データ、海洋アルカリ度損失の数値モデルなどを統合し、フィールドデータを時系列かつ位置情報付きで管理する独自基盤「フェルダ(Feluda)」を運用した。これにより、自然風化と強化風化を厳密に区別するMRV(測定・報告・検証)体制を構築した。アイソメトリックの創業者イーモン・ジャバウィ氏は「アジアで初のERWクレジット認証であり、高品質なCDR需要の拡大を示す」と述べた。

同プロジェクトは今後、2026年に年間100,000クレジットを発行できる体制を目指し、対象農地を100,000エーカー以上に拡大する計画である。発行データはすべてアイソメトリックの公開レジストリに記録され、第三者が検証できる仕組みとなる。

アルトカーボンは、フロンティア(Stripe、Alphabet、Shopify、Meta、McKinsey Sustainabilityが設立)などの初期買い手から1,000億円規模のCDR購入コミットメントの一部を受けており、ネクストジェン(South Pole・三菱商事主導)、ジョン・グッド・グループ、CUR8、CEEZER、ウォーターシェッドなども買い手として名を連ねる。

世界のボランタリーカーボンクレジット市場では、法規制(日本・シンガポール・スイス等)や航空分野のCORSIA、投資家の圧力が追い風となり、CDR市場は過去3年で3億ドル(約450億円)から100億ドル(約1.5兆円)へと急拡大した。マッキンゼーは2030年までに年間3,000億〜4,000億ドル規模へ成長すると予測している。インド国内でも、「2030年までに1兆ドル(約150兆円)の気候資金が必要」との指摘があり、ERWを含むCDRの産業化が国家的課題となる。

アルトカーボンの共同創業者スパルシュ・アガルワル氏は「今回の発行は、インドから世界へ向けたCDRの製造モデルを実証する第一歩だ」と述べ、日本とインドの気候協力(JCM協定)強化への貢献を強調した。同社は今後12カ月で農家25,000世帯以上と連携し、南アジアの農地にCDRaaS(Carbon Removal as a Service)の提供を広げ、メガトン規模の除去体制を構築する計画である。

参考:https://www.alt-carbon.com/press-releases/alt-carbon-makes-asias-largest-verified-enhanced-weathering-credit-issuance-to-japanese-shipping-giant-mitsui-o-s-k-lines