米国の自然由来炭素除去(CDR)事業者チェスナット・カーボン(Chestnut Carbon)は11月5日、北米最大級の金融機関TDバンク(Toronto-Dominion Bank)と、改良型森林管理(Improved Forest Management, IFM)によるカーボンクレジットの長期販売契約を締結したと発表した。供給期間は4年間で、TDは自社の事業活動や出張に伴う温室効果ガス(GHG)排出を自発的に相殺するため、同カーボンクレジットを活用する。
今回の契約に基づき、チェスナット・カーボンは米国内37州で展開するIFMプロジェクトから生成した森林由来のCDRクレジットをTDに供給する。これらのクレジットは、民有の「リスクにさらされた森林」を対象とし、伐採圧力の高い土地を長期的に保全することで追加的な炭素吸収を生み出す。
チェスナットの森林カーボンクレジットは、森林科学者、炭素専門家、土地管理者のチームにより裏付けられており、森林の生態系保全に加え、地域社会への便益も重視している。プロジェクトは大気・水質の改善、野生生物の生息地保護、農村地域の気候レジリエンス強化など、環境・社会両面での効果を狙う。
TDバンクの環境担当副社長ニコール・ヴァドリ氏は「この契約は、低炭素経済への移行を支援する革新的な自然由来ソリューションへの投資方針を示すものだ」と述べた。同社は子会社TDセキュリティーズを通じ、顧客にもIFMクレジットへのアクセスを提供し、持続可能な金融プラットフォームの一環として活用していく。
一方、チェスナット・カーボンの最高商務責任者シャノン・スミス氏は「TDを購入者として迎え、脱炭素目標の前進を支援できることを誇りに思う。森林所有者と連携し、次世代へ森を継承する取り組みを進める」とコメントした。
チェスナットは2025年2月に初のIFMクレジット約6万4,000単位を発行し、総額220万ドル(約3.5億円)でJPモルガン・チェースなど複数企業に販売している。今回のTDとの契約により、同社は長期的な需要基盤を確保し、北米の自然由来CDR市場での地位を強化する構えだ。
同社が運営する「フォレスト・カーボン・ワークス」プログラムでは、森林所有者が木材伐採に代わる収益手段として炭素市場に参加できる仕組みを整備。収益分配モデルにより、森林を自然のまま維持しながら地域イベントやエコツーリズムなど多様な活用を促している。
自然由来のCDR手法への関心は、追加性と検証可能性をめぐる議論を背景に高まっており、金融機関が直接カーボンクレジットを購入する動きは信頼性確保の一助となる。TDの今回の契約は、民間金融の資金が森林保全を通じた炭素除去へと循環する象徴的な事例といえる。