欧州委員会は11月4日、最新のEUイノベーション基金(Innovation Fund)による助成金として29億ユーロ(約4,950億円)を61件のネットゼロ技術プロジェクトに交付したと発表した。今回の選定では、炭素回収・貯留(CCS)およびCO2輸送を軸とした案件が目立ち、欧州全域でカーボンマネジメントインフラ整備の加速が明確になった。
クリーン・エア・タスクフォース(Clean Air Task Force, CATF)によると、これらの受賞案件によりEU資金が支援する炭素回収プロジェクトの総量は、「2030年までに年間5,000万トンのCO2注入能力を確立する」というネットゼロ産業法(Net-Zero Industry Act)の目標のほぼ半分に相当する規模に達したという。CATFの炭素回収部門ディレクター、トビー・ロックウッド氏は「今回の結果は明確な需要の表れだ。産業脱炭素を実現するためには、民間が貯留インフラの整備を進め、政府が越境輸送を支援する必要がある」と述べた。
欧州南東部で新たなCO2バリューチェーンが形成
これまで北海沿岸に集中していたCCSクラスター構築は、ベルギー、フランス、イタリア、ギリシャ、ルーマニアなど南欧・東欧諸国にも広がりつつある。ルーマニアの「カーボン・ハブCPT01」は、ホルシム社のカンピュルング工場(年間排出量約100万トン)と石灰プラントを新設の陸上地質貯留サイトと結び、内陸型CCSモデルの実証拠点となる見通しである。
また、フランスでは「AirvaultGoCO2」「VAIA」など大型セメント・石灰捕集プロジェクトが採択され、イタリアの「DREAM」、ベルギーの「ANTHEMIS」などとともに、重工業部門の初期展開を牽引する。
CO2輸送の新モデル「サービス化」も進展
スペインの「COnet2 Sea」プロジェクトは、液化CO2の海上輸送を専用船で行う「CO2輸送サービス事業」として位置づけられ、パイプライン網が未整備な地域でも早期排出削減を可能にする。ギリシャではオープンアクセス型のCO2輸出ターミナル計画が進み、海上回収実証(Maritime Capture)も新たに加わった。これにより、海運由来の炭素回収がEU支援の枠組みに正式に組み込まれた。
産業プロセス起源排出への対抗策
欧州ではセメント、化学、鉄鋼、廃棄物など「電化では削減が困難な排出源(ハード・トゥ・アベート産業)」が全体排出の大部分を占めており、CCSや炭素除去(CDR)は再エネ・省エネと並ぶ中核技術と位置づけられている。各種分析では、EUが2050年ネットゼロを達成するために年間3億〜6億トンのCO2を捕集・貯留する必要があると推計されている。
今回の助成選定により、内陸部の地質貯留や越境輸送など、欧州の炭素管理体制は「北海中心」から「大陸全体ネットワーク」へと進化しつつある。欧州委員会は2026年以降もイノベーション基金を通じ、CCS・CO2輸送インフラ整備の支援を継続する方針である。