英政府、「カーボン・バジェット成長計画」を公表 再生可能エネルギー投資を加速し、雇用40万件創出へ

村山 大翔

村山 大翔

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英国政府は10月29日、クリーンエネルギー経済の成長を軸とした新たな気候行動指針「カーボン・バジェットおよび成長実施計画(Carbon Budget and Growth Delivery Plan)」を発表した。これは2008年気候変動法(Climate Change Act)に基づく最新の排出削減戦略であり、同国のネットゼロ経済が国全体の成長率を3倍上回る中、今後5年間でさらなる脱炭素投資と雇用創出を目指す。

英経済、脱炭素で成長加速 投資総額は約1兆円規模に

新計画では、2022年のウクライナ侵攻以降も依然高止まりするガス価格(侵攻前比で約75%高)から脱却するため、再生可能エネルギーと原子力への投資を強化する。これにより、英国の家庭用エネルギー料金を恒久的に引き下げる「エネルギー安全保障の確立」を目指す。

英商工界によると、クリーンエネルギー分野には昨年7月以降、民間投資総額500億ポンド(約9.6兆円)が表明されており、政府は2030年までに新規雇用40万件を創出すると見込む。風力発電製造拠点のハル、炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトが進む北西部・北東部、ウェールズやスコットランドの港湾再開発など、地域経済への波及も期待される。

家庭支援と脱炭素技術の普及 「罰則ではなく誘因」で移行を推進

政府は同時に、「ウォーム・ホームズ計画(Warm Homes Plan)」を通じて500万世帯の住宅改修支援を実施する。断熱強化や屋上ソーラー設置を支援し、低炭素暖房(ヒートポンプなど)への移行を促すもので、「ボイラー禁止」などの強制措置は取らず、補助やインセンティブによる自然な普及を目指す。今冬には低所得層600万世帯が対象となる電気代割引制度も拡充する。

同計画には、メタン削減行動計画(Methane Action Plan)投資家向けプロスペクタス(Investor Prospectus)も含まれ、投資家が英国の脱炭素事業に参入しやすくする政策支援の方向性を明示している。

「クリーンエネルギーこそ成長の核」 政府・産業界が一致

エド・ミリバンド気候・エネルギー安全保障相は、「この計画は国民の生活をより良くするためのものだ。安価なエネルギー、暖かい住宅、清浄な空気、そして自然へのアクセスを拡大する」と述べ、脱炭素と生活改善の両立を強調した。

英産業連盟(CBI)のレイン・ニュートン・スミス最高経営責任者は、「気候法が英国をクリーンエネルギー投資の世界的リーダーに押し上げた。いま必要なのは政策コストを見直し、電力料金を下げる大胆な行動だ」と指摘した。

また、労働組合会議(TUC)のポール・ノワック書記長は「今回の計画は製造業サプライチェーンと雇用への投資を約束するものであり、地域経済にとって朗報だ」と歓迎した。

カーボンクレジット市場への波及と国際的影響

英国の新計画は、カーボンバジェット(炭素予算)第4〜6期(2023〜2037年)に対応しており、今後の排出削減進捗を明確化する。これにより、カーボンクレジット市場の透明性と信頼性が高まり、企業によるボランタリーカーボンクレジット購入や炭素除去(CDR)投資を後押しする可能性がある。

特に「グレート・ブリティッシュ・エナジー」の設立や核エネルギー復興策など、国家主導のインフラ投資が新たなクレジット創出源となり得る点で注目される。

同計画は、今後策定される「第7次カーボンバジェット(Carbon Budget 7)」への布石とされ、次期予算案で産業電力コスト引き下げ策が焦点となる見通しである。

参考:https://www.gov.uk/government/news/climate-plan-captures-clean-energy-benefits-and-boosts-investment