Arbor Energy 「AI時代の基盤電力」をゼロエミッション発電タービン供給へ シリーズAで55億円調達

村山 大翔

村山 大翔

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米新興企業アーバー・エナジー(Arbor Energy)は10月22日、ゼロエミッション発電タービンの商用化加速を目的に5,500万ドル(約83億円)のシリーズA資金調達を完了したと発表した。調達はローワーカーボン・キャピタル(Lowercarbon Capital)とボイジャー・ベンチャーズ(Voyager Ventures)が共同主導し、ギガスケール・キャピタル(Gigascale Capital)やマラソン・ペトロリアム(Marathon Petroleum Corporation)なども出資した。

リード段階の資金は、同社が開発する1メガワット級パイロット装置「ATLAS」の完成および25メガワット級商用タービン「HALCYON(ハルシオン)」の設計・実証を進めるために充てられる。ハルシオンは酸素燃焼と超臨界二酸化炭素(sCO2)サイクルを組み合わせ、コンパクトかつ高効率で排出ゼロを実現する設計だ。ユニット単体または複数連結で最大1ギガワット超の電力供給が可能になるという。

アーバーの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のブラッド・ハートウィグ氏は「私たちには、クリーンで信頼性の高い電力を産業のスピードに合わせて供給できる大きな機会がある。この資金調達で技術実証段階から商用展開へと迅速に進める」と述べ、「ハルシオンのようなモジュール型ゼロエミッション・タービンが、企業が直面する最大のエネルギー課題を解決する」と強調した。

データセンターの「脱炭素ベースロード電源」

AIやデータセンターの電力需要が急増する中、各国の電力会社は供給力の拡大と脱炭素化の両立を迫られている。アーバーは25〜100メガワット級の中規模モジュールを高速展開することで、再エネの間欠性を補う「脱炭素ベースロード電源」を狙う。

ボイジャー・ベンチャーズの創業パートナー、サラ・スクラーシック氏は「AI革命はかつてない規模のクリーン電力を必要としている。アーバーのタービンはデータセンターに不可欠なベースロードを、従来のインフラでは実現できないスピードと柔軟性で提供する」と述べた。

バイオマス燃料による「マイナス排出」

アーバーは燃料として天然ガスに加え、将来的にバイオマスを活用する方針も示している。この場合、発電過程で二酸化炭素を回収・貯留することでバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)となり、実質的な炭素除去(CDR)を実現できる。

2025年7月には、ストライプやグーグル、メタ、マッキンゼーなどが出資するフロンティア・コアリション(Frontier Coalition)が、アーバーから4,100万ドル(約62億円)相当のCDRクレジットを購入する契約を締結した。2028〜2030年にかけて合計11万6,000トンのCO2除去が納入される予定で、この資金はルイジアナ州レイクチャールズに建設される初の商用BECCS発電所に充てられる。

2030年代初頭に年産100基体制へ

同社は2032年までにハルシオンを年間100基以上製造し、世界で毎年1ギガワット超の新たなカーボンニュートラル電力を供給する計画だ。タービンの主要部品には3Dプリンティング技術を採用し、供給網の逼迫や保守コストを削減する。

アーバーの技術は、天然ガス火力に代わる柔軟なベースロード電源として、またBECCSによるカーボンリムーバル手段として、両面の価値を持つ。AI時代の電力危機と気候危機の双方を同時に解決する「次世代タービン」として注目が集まっている。

参考:https://arbor.co/perspectives/series-a-halcyon-clean-power