大阪ガスは10月、出光興産、兼松、Green Carbon、損害保険ジャパン、東邦ガス、芙蓉総合リース、三菱UFJ信託銀行の計8社と共同で、フィリピンを拠点に水田由来の温室効果ガス削減クレジットの普及を目指す「水田JCMコンソーシアム」を設立した。二国間クレジット制度(JCM)を基盤とした民間主導の組織としては国内初であり、農業分野のカーボンクレジット創出を通じて、日本政府が掲げる2030年度までに1億t-CO2の削減という目標達成にも貢献する狙いだ。
本コンソーシアムは、フィリピンで導入が進む間断灌漑(AWD)を活用したプロジェクトを分析し、米の収量や気象条件がメタン排出削減効果に与える影響を明らかにする。分析結果を基に、パートナー国の政府関係者や農家に対し、農業分野のJCM活用による経済的・環境的メリットを示し、カーボンクレジット市場の形成を後押しする。
JCMは、日本とパートナー国が共同で温室効果ガスの削減に取り組み、その成果を両国が共有する仕組みである。日本政府は2025年2月の閣議決定で、2030年度までに1億t-CO2、2040年度までに2億t-CO2の削減を確保する目標を掲げ、パリ協定下の国別削減目標(NDC)達成の柱に据えている。
現在、農業分野でのJCMクレジット発行実績はまだないが、フィリピンは日本との間でAWDを正式承認済みで、最も進展している国の一つとされる。
AWDとは、水稲栽培の過程で一時的に水田の水を抜き、土壌を乾燥させた後に再び給水する管理手法である。水を張り続ける従来の方法に比べてメタン発生量を約30%削減できるとされ、同時に収量向上の効果も報告されている。ただし天候の影響を受けやすく、リスク評価が十分でない点が課題とされてきた。
今回のコンソーシアムでは、AWD実施地域での雨量・台風データとメタン削減量を組み合わせて解析し、天候リスクを「可視化」する。これにより、投資家に対する予見性を高め、クレジットの信頼性を裏付けるデータを公開することで、安心して取引できる市場環境の整備を目指す。
環境省と農林水産省はオブザーバーとして参画し、共同声明で「AWDは自然に基づく解決策(NbS)の先行事例として重要であり、民間企業が連携して市場形成を進める意義は大きい」と評価した。また、両省は「今後も民間主導のJCM案件形成を後押しする」と述べ、支援姿勢を示した。
大阪ガスは、フィリピンのバタンガス州、ラグーナ州、北イロコス州でAWDを用いたメタン削減プロジェクトを展開しており、地域分散によって天候リスクの平準化を図っている。同社は「エネルギートランジション2050」に基づき、脱炭素社会の実現に向けた技術開発を加速させる方針だ。
参考:https://www.osakagas.co.jp/company/press/pr2025/1791066_58387.html