EquinorやOrstedなど50超の企業・業界団体が共同要請、CBAM対策やコスト削減に期待

村山 大翔

村山 大翔

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英国とEUのETSの連携を求め、欧州の50以上の企業と業界団体が共同で要請文を提出したことが明らかとなった。背景には、カーボンプライシングの格差是正、カーボンリーケージ防止、CBAMへの対応といった複数の狙いがある。

この要請は、2025年5月19日に予定される英EU首脳会談に向けて行われたもので、参加企業にはEquinor、Orsted)、RWEなど欧州を代表するエネルギー大手が名を連ねている。

英・EU ETSの連携がもたらす三つのメリット

要請文では、ETSのリンクによって、以下のようなメリットがあると強調されている。

  1. 炭素価格の収斂と市場の一体化
    現在、英国ETSの価格はEU ETSよりも1トンあたり約48ポンド安く、両市場の価格差が企業間競争に歪みを生じさせている。連携が実現すれば、価格の安定化と一貫性ある市場インセンティブが期待できる。
  2. カーボンリーケージ防止
    EUが導入を進めるCBAM(2026年施行予定)では、鉄鋼や肥料、電力などの輸入に対して排出量に応じた課徴金が課される。ETSの連携により、英国からの輸出はCBAMの対象外となる可能性が高く、脱炭素型製品の輸出促進にもつながる。
  3. 長期的なコスト削減と制度安定性の向上
    短期的には英国の炭素価格上昇が予測されるが、制度が統一されれば取引・投資の予見性が高まり、総コストの抑制につながると専門家は指摘している。

欧州エネルギー企業が連携を求める背景

英国の再エネ発電量はEUへの輸出依存度が高く、CBAMがその障害になりかねないと懸念されている。特に再生可能エネルギー由来の電力であっても、ETS非連携国からの輸出には追加コストが発生するリスクがあり、それが電気料金の上昇や再エネ導入の足かせになるという指摘もある。

英国は気候変動対策として2030年までに1990年比で55%のGHG削減を目指しており、炭素市場の効率性は今後の施策においても重要な位置を占める。

今後の展望、炭素市場統合は実現するか

ETSの制度連携はブレグジット以降、政治的にも技術的にも停滞していた議題であるが、脱炭素化の国際的加速を受けて再び注目され始めている。

英国政府は「エネルギー安全保障」「貿易障壁の除去」「気候協力の強化」を次回会談の柱に掲げており、今後の交渉の行方に注目が集まっている。