カナダの業界団体カーボン・ビジネス・カウンシル(Carbon Business Council)と非営利団体カーボン・リムーバル・カナダ(Carbon Removal Canada)が委託した全国世論調査の結果が10月16日、オタワで公表された。調査では、炭素除去(CDR)への賛成が64%に達し、81%が「カナダの強靭で安定した将来に不可欠」と回答した。調査は世論調査会社アバカス・データ(Abacus Data)が7〜8月に全国2,300人を対象に実施した。
支持は与野党をまたぐ。自由党支持層の77%、新民主党(NDP)支持層の76%、保守党支持層の51%がCDRを支持した。地域別ではケベック州が74%、オンタリオ州が68%で先行した。
CDRの認知度も広がる。耐久的なCDR手法への「親しみがある」と答えた人は54%だった。回答者の62%は「CDRを支持する候補者に投票しやすい」とし、企業についても56%が「CDRへ投資する企業を好意的に見る」と述べた。
雇用・経済波及への期待も強い。67%が「雇用と経済機会を生む」と評価し、政策手段では企業スタンダードの策定66%、気候戦略への統合63%、税額優遇61%、許認可の迅速化60%、イノベーション資金60%、政府調達59%が支持された。地域ごとの動機は、ブリティッシュコロンビア州でのイノベーション主導、サスカチュワン州とマニトバ州での農業共便益、アトランティック・カナダでの気候レジリエンス重視などが挙がった。
社会的受容性では、地域住民の関与が最大公約数となった。約9割(86〜87%)が「地域プロジェクトにはコミュニティ協議を義務化すべき」と回答した。カーボン・ビジネス・カウンシルのベン・ルービン事務局長は「気候と経済の双方で成果を出す解決策を国民は求めている。あとは地域と国家に実益をもたらす形で適切に事業を構築するだけだ」と述べた。カーボン・リムーバル・カナダのナイーム・マーCHANT事務局長は「恒久的除去への認知と経済性の理解が進んでいる。各地域の資源を活かせば新産業のフロントランナーになれる」と指摘した。
今回の結果は、連邦・州レベルで進む税額控除、政府調達、イノベーション政策と歩調を合わせる内容である。同時に、同国で12メガトン超の計画除去能力が可視化されつつあることも示された。CDRは排出削減と並行して大気中のCO2を物理的に除去する取り組みであり、排出源での回収を主とするカーボンキャプチャー(CCS)とは異なる。
日本の読者にとっての含意は二つある。第一に、耐久的CDRクレジットの需要創出に必要な「政府調達」「企業スタンダード」「許認可の迅速化」への高支持は、市場設計の羅針盤となる。第二に、コミュニティ協議の義務化を求める圧倒的多数は、自然由来・技術由来を問わずプロジェクトの社会受容性(SLO)を左右する分水嶺である。カナダでは年内以降、税制・調達の詳細設計と地域協議の枠組み構築が実装段階の焦点となる。
調査手法は、アバカス・データが全国2,300人を対象にオンラインで実施したもので、恒久的CDRを経済セクターかつ気候ツールとして捉える最初期の大規模評価の一つである。結果は10月16日に公表された。
参考:https://www.carbonbusinesscouncil.org/news/canada-polling-results