「CCUS法2025」施行 マレーシア、CO2輸入と地中貯留を本格規制 東南アジアの炭素貯留ハブを目指す

村山 大翔

村山 大翔

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マレーシアで、炭素の回収・輸送・利用・貯留(CCUS)を総合的に管理する新法「CCUS法2025」が、2025年3月に正式に施行された。政府はこの制度を通じて、2050年までの温室効果ガス排出ゼロ(ネットゼロ)に向けた取り組みを強化し、国内外のCO2を安全に貯留する「東南アジアのハブ」になることを目指している。

この法律は、マレー半島とラブアン地域を対象に、CCUS事業のルールを明確化するもの。州ごとに異なる法制度を持つサバ州とサラワク州は対象外となっている。

運用を担うのは、新たに設立された「マレーシアCCUS庁(MyCCUS)」。CCUS事業には、地質調査を行う「評価許可」と、貯留を実施する「貯留ライセンス」の2段階の許可が必要になる。違反した場合は、最大200万リンギット(約6,600万円)の罰金または最長5年の懲役が科される。

大きな特徴は、「海外からのCO2輸入」にも規制を設けた点だ。輸入されたCO2は一定の純度や安全基準を満たす必要があり、国内で再利用することは禁じられている。これらはすべて地中に貯留する必要があり、違反には厳しい罰則が設けられている。

さらに、CO2の注入量に応じた「貯留課徴金」や、貯留施設の閉鎖後も長期間監視するための「事後管理基金」も設けられた。これらの費用は事業者が負担し、MyCCUSが管理する。

マレーシア政府は、老朽化した油田やガス田を活用すれば、最大で133億トンのCO2を貯留できると試算している。これにより、2050年までに国内排出量を約5%削減し、最大2,500億米ドル(約39兆円)の投資を呼び込み、25万人の雇用創出を目指すという。

ただし、環境団体「サハバット・アラム・マレーシア」などからは批判の声も出ている。市民への説明が不十分なまま進められたことや、CO2漏洩のリスク、さらには「海外の排出を持ち込むことでマレーシアが炭素のゴミ捨て場になるのでは」といった懸念がある。また、CCUSに注力することで、再生可能エネルギーへの投資が後回しになる可能性も指摘されている。

一方、国営石油会社ペトロナスは「CCUSは新たな収益源になる」として積極的な姿勢を示している。今後はマレーシア東海岸にCO2の輸出入ターミナルを建設し、地域産業の活性化にもつなげたい考えだ。

現在、同法に基づく詳細な運用ルールや技術基準の整備が進められており、2025年3月末までに本格運用が始まる見通し。マレーシアはこの法律を足がかりに、CO2の安全な貯留と経済成長を両立させるモデルケースとなることを目指している。