シンガポール政府は9月16日、ガーナ、ペルー、パラグアイの4件の自然由来プロジェクトから計217万5,000トン分のカーボンクレジットを調達すると発表した。調達額は約7,600万シンガポールドル(約84億円)で、2026年から2030年にかけて自国の温室効果ガス削減目標に活用する。これは2024年9月に公募した国際提案依頼(RFP)の結果で、シンガポールの2030年国家削減目標(NDC)達成を支援する。
パリ協定第6条の枠組みを活用
シンガポールは2050年までのネットゼロを掲げ、2030年までに排出量を約6,000万トンCO2換算に抑える方針を示している。域内での太陽光発電や再エネ輸入、CCS(炭素回収・貯留)などを進める一方、国土や資源の制約から完全な脱炭素は困難とみられる。このため、パリ協定第6条に基づく国際カーボンクレジットの利用を「補完的な道筋」として位置づけている。
国家気候変動事務局(NCCS)と通商産業省(MTI)が主導するRFPは、環境的完全性を確保した高品質クレジットを対象としたもので、追加性や恒久性、リーケージ回避、地域社会への便益が重視された。政府は年内に第2弾の公募を予定している。
採択された4プロジェクト
採択案件には、ペルーの「コーエン・アンタミREDD+」と「トゥギャザー・フォー・フォレストREDD+」、パラグアイの「ブーミトラ草原回復プロジェクト」、ガーナの「クワフ景観回復プロジェクト」が含まれる。
特に注目されるのは、米Earthshot Prizeを受賞した気候テック企業ブーミトラ(Boomitra)の草原土壌炭素プロジェクトだ。パラグアイの牧草地7万6,355エーカーを対象に再生型放牧を導入し、土壌中の炭素隔離を強化する。2021年の開始以降、すでに10万トン超のCO2を除去しており、今後は年間50万トン規模の除去を目指す。シンガポールとの契約では2026〜2031年に62万5,000クレジットを供給する。
ガーナのプロジェクトは40年間で3,350万トンのCO2隔離を見込む森林回復事業で、ペルーの案件は違法伐採の抑止や森林管理支援を軸にする。
国際協力と地域への還元
シンガポールはこれまでにブータン、チリ、パプアニューギニアなど9カ国と二国間実施協定(IA)を締結しており、契約クレジットの5%相当を現地の気候適応策に還元する方針だ。今回の合意も各国政府の承認を条件としており、国際炭素市場の制度設計において「政府調達型の先進事例」と位置づけられる。
ブーミトラのアーディト・ムールティCEOは「高い完全性を持つ土壌炭素プロジェクトがコンプライアンス基準を満たすことを示す画期的な事例だ」と述べ、農民や地域社会に直接収益を還元する仕組みが拡大すると強調した。
今後の展望
シンガポールは約150社が活動する炭素サービス・取引拠点としての地位を強化しており、今回の契約はその基盤をさらに固める。自然由来クレジットの利用は、脱炭素目標の補完手段であると同時に、途上国の森林保全や農業再生への資金流入を促す仕組みとして注目される。次回のRFP結果は年末までに示される見通しだ。
参考:https://boomitra.com/singapore-government-signs-deal-with-boomitra/