気候変動分野の国際的な科学者グループが、自然気候解決策(NCS)の排除に警鐘を鳴らしている。9月9日に公表された公開書簡で、科学者らはサイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアチブ(SBTi)と国連のパリ協定第6.4条監督機関に対し、NCSをクレジット制度や企業の気候目標から外す動きは「科学的にも倫理的にも不当」と訴えた。
書簡は、森林再生、湿地回復、土壌炭素管理といったNCSが、世界全体で高い信頼性を持つ費用対効果の高い緩和ポテンシャルの約28%を占めるとする気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の2023年報告を引用している。それにもかかわらず、近年の政策提案では、火災などによる「炭素逆転リスク」を理由にNCSを軽視する傾向が強まっている。
科学者らは、永続性(パーマネンス)を二元論的に扱い、化石燃料由来の排出は1,000年以上の貯留でしか相殺できないとする「ライク・フォー・ライク」原則が、実効的な気候行動を妨げていると批判した。逆転リスクは保険制度や金融分野の手法で管理可能であり、排除の根拠にはならないと強調している。
NCSによる一時的な炭素除去は、温暖化のピークを抑え、直接空気回収(DACCS)や炭素回収・貯留(CCS)といった工学的除去技術が拡大するまでの時間を稼ぐ役割を果たせる。加えて、NCSは低コストで拡張性が高く、生物多様性や水資源保全など複数の副次的効果を伴うため、広範な政治的支持を形成しやすいと指摘した。
一方、工学的除去技術は長期的な耐久性を持つ可能性があるものの、現時点ではエネルギー消費とコストの制約から大規模導入には至っていない。科学者らは「気候戦略は恒久性のみを重視すべきではなく、規模性と耐久性を組み合わせたポートフォリオ型のアプローチが必要だ」と結論づけた。
SBTiと第6.4条監督機関は、今後の規制設計において「バリューチェーンを超えた削減(BVCM)」やScope3削減目標の残余排出の扱いを議論する予定であり、今回の書簡は政策決定に影響を与える可能性がある。