日本のカーボンクレジットデベロッパーであるGreen Carbonは9月8日、インドのヴァルハッド・キャピタル(Varhad Capital)、スイスのカーボンフューチャー(Carbonfuture)と戦略的提携を締結し、インド・マハラシュトラ州で大規模なバイオ炭による炭素除去(CDR)プロジェクトを始動すると発表した。カーボンフューチャーを通じて12万300トンの高品質なカーボンクレジット(CDRクレジット)が供給される予定で、日本企業が主導するインド最大級のバイオ炭CDR事業となる。
プロジェクトでは、ヴァルハッド・キャピタルがヴィダルバ地方に2基の産業規模バイオ炭生産施設を建設する。最初のプラントは2025年8月、2基目は同年11月に稼働予定で、農業残渣を年間6,000トン以上のバイオ炭に変換し、土壌改良や収量増加に役立つ肥料として地元農家に供給する。これにより、農村経済の安定と環境保全を同時に進め、新興国におけるCDR普及を後押しする狙いだ。
Green Carbonの妹尾COOは「バイオ炭生産の持続可能性を確保することで、環境上の利益と農家の生計改善を両立させ、除去型クレジット市場でのリーダーシップ確立に向けた重要な一歩となる」と述べた。ヴァルハッド・キャピタルのシッダールタ・パクラシChief Carbon Officerは「検証可能なCDRクレジットの大規模供給に加え、土壌保全や小規模農家支援を推進する」と強調した。カーボンフューチャーのマルセル・アイヒラーCDR調達担当シニアマネージャーは「MRV+システムで追跡される各クレジットは透明性を保証し、産業規模のバイオ炭CDRの先駆例となる」と指摘した。
今回の発表は、インドにおけるカーボンクレジット市場拡大の流れと重なる。直近でも農業分野では、世界的農産物商社ルイ・ドレフュス・カンパニー(Louis Dreyfus Company)がインドのクライメートテックスタートアップ、ヴァラハ(Varaha)と5年契約を締結し、農業残渣の野焼きを避ける「脱焼却農法」を支援しながらカーボンクレジットを調達する取り組みを始めた。
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また、8月末には日本とインド両政府が二国間クレジット制度(JCM)の協力覚書に署名し、再エネ導入や省エネプロジェクトを通じたクレジット創出を加速させる枠組みを整備している。
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インド政府は2023年に自国の炭素市場統合政策(Carbon Credit Trading Scheme)を導入し、国内排出量取引制度(ETS)の整備を進めている。今後は再エネ電力、農業、産業プロセスなど複数の分野でクカーボンレジットが創出される見通しで、2030年に向けた温室効果ガス削減目標の達成に直結するとみられている。特に農業関連の削減型・除去型クレジットは国際企業からの需要が高く、外資参入の動きも強まっている。
Green Carbonは今後、バイオ炭事業の拡大と認証管理を進め、2〜3年以内に除去系のカーボンクレジット分野での世界的リーダーを目指す方針だ。さらに、水田でのメタン削減技術「間断灌漑(AWD)」を組み合わせ、包括的な気候ソリューションの提供を進める。インドの農業由来クレジットや日印JCM協力との相乗効果により、同国は今後、国際炭素市場の供給拠点として存在感を高める可能性がある。
参考:https://green-carbon.co.jp/jpindias-largest-biochar-carbon-removal-project/