国際民間航空機関(ICAO)が、CORSIA適格排出ユニットの要件に、ユニットは発行元のプログラム指定登録簿上で継続的に維持されなければならないとする脚注を追加した。これにより、国家登録簿を経由して発行されるジンバブエ産カーボンクレジットのCORSIA適格性が不透明になっている。
本件は、パリ協定6条2項が主権国家に認める緩和成果の追跡裁量と、CORSIAが求める承認済みプログラム登録簿での一貫した保持という、二つの国際制度の設計思想が衝突する事案である。
適格性は未確定のまま係争状態に
ICAOはジンバブエ炭素市場庁(ZiCMA)の登録簿枠組みについて、承認・不承認のいずれも公式に発表していない。ZiCMAは2026年の審査サイクルで評価を申請中の25プログラムの一つであり、申請に対する公開協議は5月18日に締め切られ、審査は年内を通じて継続する。
一方で、ゴールドスタンダード(Gold Standard)財団は、ジンバブエの登録簿へ移転されたクックストーブ由来の約160万トン分のカーボンクレジットについて、適格性の認定を一旦保留した。
これに対しジンバブエ環境省は、適格性を否定する一連の主張を事実に反するものとして全面的に否定し、問題は環境十全性の欠如ではなく、ICAOの技術的解釈とパリ協定が求める主権的な追跡メカニズムとの制度的な不整合に起因すると反論している。
ジンバブエ・モデルの構造
ジンバブエは「炭素取引(一般)規則(2025年)」に基づき、発行から14日以内にカーボンクレジットを国家登録簿へ移転することを義務付けている。ゴールドスタンダードのようなプログラムは、自社登録簿上のユニットを一旦キャンセルし、ジンバブエ炭素登録簿(ZCR)上で対応調整を伴う形で再発行する。
具体的には、ゴールドスタンダードの登録簿(GSIR)で発行された管理用のGS-VERがキャンセルされ、ZCR上で対応調整済みのITMOとして発行・トークン化され、UNFCCCに報告される。その後ITMOはZCRでキャンセルされ、外部移転として対応調整が確定したうえで、GSIRで新たなA6 GS-VERすなわちCEEUとして再発行される。CORSIAラベルが付与されるのはこの最終段階である。
ゴールドスタンダードは、CEEUがこの最終段階で初めて生成され、以後GSIRから一度も移動しないため、脚注が求める継続的維持の要件を満たすと主張している。
キャンセルとリタイアメントの不整合
対立の核心は、「キャンセル」と「リタイアメント」の定義の不一致にある。ジンバブエは、ユニットを消費せずに登録簿間で安全に移動させる手段としてキャンセルを用いる。
しかしCORSIAの枠組みは、登録簿間の移転と最終的なオフセット使用としてのリタイアメントを区別する運用上の語彙を持たない。同一のキャンセルという操作が移転処理なのか使用済み処理なのかを制度上判別できない点が、適格性評価のボトルネックとなっている。
主権と整合性の衝突
この問題は、二つの国際制度の整合性という、より構造的な論点を浮かび上がらせる。パリ協定6条2項は、緩和成果をどのように追跡するかについて主権国家に裁量を認めている。ジンバブエの国家登録簿は、政府が承認書を発行し移転時に対応調整を適用することで、この6条の趣旨に沿った設計となっている。
一方、ICAOの規則は、適格なカーボンクレジットが承認済みの民間プログラム登録簿を経由することを求め、国家登録簿からの直接的な移転を想定していない。結果として、6条に整合的な主権的アプローチが、それが供給しようとするコンプライアンス制度と整合しないという逆説が生じている。
同様の構造はジンバブエに限らず、独自の国家登録簿を整備する他のアフリカ諸国にも共通する論点である。
編集部の視点
本件はカーボンクレジットの品質や環境十全性そのものをめぐる問題ではなく、パリ協定6条の主権的な登録簿アーキテクチャとCORSIAのプログラム登録簿要件という、二つの国際制度の接続をめぐる設計上の論点である。
ICAOの最終裁定は未確定であり、適格性の成否を現時点で断定することはできない。制度間の相互運用をどう設計するかが、主権登録簿型カーボンクレジットの国際的な流通可能性を左右する論点となる。
参考:https://www.icao.int/sites/default/files/environmental-protection/CORSIA/Documents/CORSIA%20Eligible%20Emissions%20Units/CORSIA-Eligible-EmissionsUnits_April-2026.pdf
