環境省は2026年6月5日、「ブルーカーボン等の吸収源対策に係る大規模実証プロジェクトの立上げ等実施事業」(補助事業)について、申請7件のうち5件を採択したと公表した。
今回の公募は、吸収源対策のうちブルーカーボンに対象を絞り込み、2050年ネット・ゼロに向けた吸収源対策の大規模化と社会実装を後押しするものである。
採択された5件の実証事業
採択されたのは、ENEOSホールディングス、岡部、グリーンコープ共同体、日本製鉄、理研食品の5者の事業である。いずれも海藻の養殖や藻場の再生を通じ、二酸化炭素の吸収・固定の大規模化を目指す。
ENEOSホールディングスは北海道奥尻町周辺の実海域で、温室効果ガス吸収を主目的とした新たな海藻養殖の試験を行う。岡部は水深約18メートルまでの多段式養殖施設を用い、アラメ・カジメ類を鉛直方向に展開してCO2固定の強化を実証する。
日本製鉄は松前町で天然藻場の再生とマコンブ養殖に取り組み、鉄鋼スラグを原料とする海域用施肥材を活用する(共同事業者は北海道大学と松前町)。理研食品は種苗生産と漁場養殖の最大化を図り、水中ドローンと水中カメラを組み合わせた現存量の把握手法を確立する(共同事業者は住友大阪セメントとニチモウ)。
グリーンコープ共同体は豊前海でアカモク藻場の大規模増殖を実証し、炭素の吸収・固定量を定量的に評価したうえで、カーボンクレジット創出に向けた方法論の確立を掲げる。事業終了後は西日本の16のグリーンコープ生協へ横展開する計画である。
吸収量の定量化と評価手法が焦点
ブルーカーボンの大規模化において最大の論点は、吸収・固定量をいかに確実に定量化し検証するかにある。採択事業の多くが現存量の把握手法や評価手法の開発を事業内容に含めており、定量化とMRVの確立そのものが実証の中核に据えられている。
藻場由来の炭素吸収は、海域の環境条件や食害、藻体の流出によって変動が大きく、固定された炭素の永続性をめぐる不確実性も指摘される。本事業は、こうした評価上の課題に国費を投じて取り組む点に特徴がある。
カーボンクレジット創出への接続
採択事業の一部は、吸収量の定量評価をカーボンクレジットの創出へと接続する方針を明示している。グリーンコープ共同体は方法論の確立を事業目標に掲げ、自らの脱炭素目標の達成と事業継続の両立を狙う。
ブルーカーボンのクレジット化は、定量化手法の標準化が進むかどうかに規模拡大が左右される。実証で得られる評価手法と方法論が、今後のブルーカーボンクレジットの供給基盤を形づくることになる。
編集部の視点
本事業は、技術由来CDRに関心が集まりがちな潮流のなかで、国が海洋由来の自然系吸収源に正面から資金を投じる姿勢を示したものである。吸収源対策の選択肢を広げ、自然由来CDRの拡大基盤を整える一歩と位置づけられる。
ただし採択されたのはいずれも実証段階の取組であり、大規模化や経済性が確立されたわけではない。
ブルーカーボンが吸収源対策の一翼を担えるかは、実証を通じた定量化・MRVの精度と、それをカーボンクレジットへと接続する方法論の標準化にかかっている。
