自動車大手のカーボンインテンシティが石油メジャーに匹敵、報告値の過少計上が移行リスクを覆い隠す

カーボンクレジット.jp 編集部

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金融シンクタンクのカーボントラッカー(Carbon Tracker)は6月2日、世界の主要自動車メーカーが車両に紐づく排出量を構造的に過少報告しており、一部メーカーのカーボンインテンシティが大手石油・ガス企業を上回るとする分析を公表した。乗用車販売の80%を占める17社を対象に、車両使用に伴う報告値と実走行ベースの推計値との間に平均33%の乖離を検出している。

報告値と実態を隔てる33%の乖離

この乖離は、非現実的な生涯走行距離の前提、PHEVの使用率に関する楽観的な見積り、燃料生産の上流排出の除外に起因する。カーボントラッカーは、実走行を反映する標準化手法を用い、企業価値対比の排出量(tCO2e/EVIC)で測定すると、複数のメーカーが石油・ガス大手を上回る炭素集約度を示すとした。

乗用車は世界の石油需要の27%を占める最大の需要源である。共著者のベン・スコット(Ben Scott)は、今日販売されるICE車・ハイブリッド車1台が10〜20年分の追加的な石油消費を固定すると指摘し、レガシー自動車への投資が多くの場合、石油・ガスへの投資と同程度に炭素集約的だと述べた。

企業間で分かれる透明性と移行戦略

開示の透明性ではルノー(Renault)とステランティス(Stellantis)が相対的に先行し、報告するScope 3排出量がカーボントラッカーの推計値とおおむね整合した。BYDやBMWは、ハイブリッド偏重のメーカーよりBEV販売比率が高い。

焦点の一つがトヨタである。

6月17日に株主総会を控える同社は、年間1,000万台超を販売する世界最大の自動車メーカーでありながら、2024年時点でBEV1台あたり約27台のハイブリッドを販売するハイブリッド偏重戦略をとる。共著者のマイケル・ウェルズ(Michael Wells)は、トヨタのハイブリッド排出量がBMWのグループ全体の排出量を上回るとし、内燃機関部品の全面禁止へ向かう主要市場の動きの中で、同社のポートフォリオが座礁資産化するリスクを指摘した。

炭素集約度が最も高いのはマツダと三菱自動車で、それぞれ10.2、9.9 tCO2e/EVICと、レポート掲載の石油・ガス企業で最高値のシェル(Shell)の4.0を大きく上回る。絶対量での乖離が最大なのはゼネラルモーターズ(General Motors、GM)で、北米市場のトラック・SUV偏重の製品構成と開示不足が要因とされる。相対的な報告乖離が最大だったのはスバルで、米国中心の高走行距離の実態を反映しない前提により、排出量が200%超過少に報告されている可能性がある。

投資家への含意と座礁資産リスク

カーボントラッカーは、不整合かつ過少となりうる排出報告が、投資家による移行リスクと炭素エクスポージャーの正確な評価を妨げると主張する。生涯走行距離、ハイブリッド使用率、燃料サイクル排出に関する前提の差異は、報告されるScope 3カテゴリ11(製品使用)の排出量を大きく歪め、発行体間の比較可能性を損ない、炭素集約的なビジネスモデルのミスプライシングを招きうる。

一方で、実走行を前提とする標準化手法による推計値もまた一定の前提に依存しており、報告値との乖離をどこまで実態とみなすかは、方法論の妥当性をめぐる論点として残る

ボーン・インパクト・キャピタル(Bourne Impact Capital)のジュゼッペ・ヤコベリ(Giuseppe Jacobelli)は、炭素集約的な既存資産からバンカブルな資産への移行に失敗したメーカーは重大な財務責任に直面するとし、機関投資家のポートフォリオがこの移行を価格に織り込む必要性を指摘した。カーボントラッカーは、ホルムズ海峡をめぐる足元の緊張がレガシー車のビジネスモデルの脆弱性を浮き彫りにしているとも指摘する。日本は石油の9割超を輸入に依存し、その多くを中東に頼る。

カーボントラッカーは、投資家が表面的な排出開示の先にある前提を精査すべきだとし、BEV販売比率を移行の中核KPIとして注視するとともに、カーボンインテンシティ(tCO2e/EVIC)を企業評価モデルに組み込むよう促している。

編集部の視点

本分析の核心は、製品使用段階の排出をどの前提で算定するかが、自動車メーカーの移行リスク評価そのものを左右するという点にある。

tCO2e/EVICという単一指標で石油・ガス大手と並置したことで、これまで個別の開示前提の中に埋もれていた炭素エクスポージャーの差が、資本市場の比較可能な土俵に引き出された。報告値と実態の乖離は、排出量そのものの問題であると同時に、評価の前提となる開示の信頼性の問題である。

もっとも、本件は移行リスク論の延長線上にあり、新たな論点を立てたというより、Scope 3カテゴリ11の算定前提という具体に議論を引き下ろした精緻化として位置づけられる。標準化手法の前提自体も検証の対象であり、乖離幅の解釈には幅が残る。それでも、開示前提の比較可能性をどう確保するかが、炭素集約的なビジネスモデルの適正な価格付けを左右する論点であることは変わらない。

参考:https://carbontracker.org/automotive-investments-can-be-just-as-carbon-intensive-as-oil-and-gas-new-analysis-shows/