東証「カーボン・クレジットOTC決済」導入を決定 相対取引の決済事務を大幅に効率化

村山 大翔

村山 大翔

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東京証券取引所(東証)は2025年12月26日、市場外で行われるカーボン・クレジットの「相対取引」において、代金の支払いやクレジットの移転を東証のシステムが代行する「カーボン・クレジットOTC取引決済サービス」を2026年3月18日から開始すると発表した。まずは個別ニーズが高い「森林」由来のJ-クレジットを対象とし、複雑な契約手続きや受渡し実務の負担を軽減することで、国内のカーボンクレジット流通の活性化を後押しする。

「こだわり」のクレジット購入をシステムで支える

現在、東証のカーボン・クレジット市場では、取引をスムーズにするために「森林」や「省エネルギー」といったプロジェクトの「種類」ごとにカーボンクレジットをまとめて売買している。しかし、購入企業側には「特定の自治体の森を守りたい」「地元のプロジェクトを応援したい」といった個別のこだわり(プロジェクト指定)がある。

こうした特定のカーボンクレジットを指名して買う場合は、市場を通さない「相対取引」となるが、これには大きな課題があった。売り手と買い手が直接、契約書を交わし、銀行振り込みで代金を支払い、さらに国の登録簿でクレジットの移転手続きを自分たちで行わなければならず、事務作業が煩雑だった。

今回の新サービスは、この「契約から決済まで」の裏方業務を、東証のインフラがすべて肩代わりするものである。

サービスの仕組みと利用メリット

新サービスでは、売り手と買い手が市場外で価格と数量を合意した後、その内容を東証のシステムに入力する。システム上でデータが一致(照合)すると、あとは東証が間に入って代金の回収とクレジットの移転を自動的に処理する。

  1. 対象範囲とコスト
    開始当初は「森林」区分のJ-クレジットが対象。利用料(照合・決済手数料)は、普及を優先して「当分の間は無料」とされた。
  2. 決済スケジュール
    売買内容が一致した日から6営業日目(T+5)に決済が完了する。東証がクレジットを一時的に預かることで、代金を払ったのにクレジットが届かないといったトラブルを未然に防ぐ。
  3. インボイス対応
    2023年から始まったインボイス制度への対応も東証が代行する。「媒介者交付特例」を適用し、東証名義で適格請求書を発行するため、企業の経理事務も劇的に簡略化される。

本サービスは2026年3月18日から開始される予定。東証は今後、市場参加者の要望を聞きながら、森林以外のプロジェクト(省エネ、再エネなど)へ対象を広げることも検討している。日本のGX投資を加速させるためには、企業が安心して、かつ手軽にクレジットを調達できる環境整備が不可欠であり、今回の決済インフラ提供はその大きな一歩となる。

これまでのカーボンクレジット取引は、プロ同士の「信頼」に基づいた手作業の側面が強く、事務コストの高さが新規参入を阻む壁になっていた。

特に「森林クレジット」は、企業が環境貢献をアピールしやすい人気の商品である一方で、プロジェクトごとに中身が異なるため、どうしても相対取引が多くなるという課題があった。東証がこの「面倒な部分」を引き受けることで、これまで事務負担を嫌気していた中堅企業や地方自治体の参入が期待できる。

また、インボイス対応の代行は、法務や経理のハードルを下げ、日本のカーボン市場が「特殊な領域」から「一般的なビジネス慣習」へと進化する契機になるだろう。今後は、クレジットの信頼性を担保するデジタル証明書(MRV)などとのシステム連携も期待したい。

参考:https://www.jpx.co.jp/news/2040/20251226-01.html