シンガポールとベトナム両政府は9月16日、パリ協定第6条に基づくカーボンクレジット協力の「実施協定」をオンライン形式で締結した。署名には、シンガポールのグレース・フー持続可能性・環境相(通商関係担当相兼任)と、ベトナムのチャン・ドゥク・タン農業・環境代行大臣が出席した。これはシンガポールにとって9件目の実施協定となり、両国の気候変動対策と低炭素経済移行の新たな柱となる。
協定は、ベトナム国内の企業や団体が温室効果ガス削減プロジェクトを登録し、国際的に認証されるカーボンクレジットを発行・シンガポールへ移転できる二国間の法的枠組みを整備するものだ。プロジェクト認可手続きや対象手法の詳細は今後発表される予定である。
フー環境相は「この協定は両国の協力の新たな分野を切り拓き、温室効果ガス削減活動の促進や地域協力の強化を通じて持続可能な発展への道を開く」と強調した。さらに、シンガポールは承認済みカーボンクレジットの取引収益の5%をベトナムの気候適応策に拠出し、初回発行時に2%のカーボンクレジットを抹消する措置を取る。これにより、取引市場の信頼性を確保すると同時に、直接的な排出削減に寄与する。
一方、タン代行大臣は「協定は気候資金の新たな扉を開き、先端技術への投資やクリーンエネルギー転換、スマート農業の普及を促進する転換点だ」と述べ、シンガポール企業に対しベトナムでの高品質クレジット創出プロジェクトへの積極的参画を呼びかけた。
今回の枠組みは、排出削減事業の拡大とともに、雇用創出や水資源アクセス改善、エネルギー安全保障の強化、環境汚染の低減といった地域社会への便益ももたらすと期待されている。国際資金の呼び込みにより、ベトナム国内の持続可能な発展を下支えしつつ、両国が東南アジアにおけるカーボンクレジット市場の中核的存在となる構図が鮮明になった。
今回の署名は、シンガポールがこれまでに締結したパプアニューギニア、ガーナ、ブータン、チリ、ペルー、ルワンダ、パラグアイ、タイに続く9件目の実施協定である。両国は今後、域内のカーボン市場形成と国際的な気候目標の実現に向けた協力をさらに強化していく見通しだ。