環境省は2026年5月22日、令和7-9年度「二国間クレジット制度資金支援事業のうち設備補助事業」の第八回採択案件として、信越化学工業によるタイ・カンチャナブリ県での太陽光発電・蓄電池導入事業を選定したと発表した。
採択された事業は、カンチャナブリ県の金属ケイ素製造工場に40MWの地上設置型太陽光発電設備と39MWhの蓄電池を導入し、発電した電力の全量を同工場へ供給する構成である。想定GHG削減量は年間16,014トンCO2、化石燃料由来の系統電力の一部を再生可能エネルギーで代替することで削減効果を生み出す。
本件で注目すべきは、発電電力の供給先がサプライヤーの製造工場であり、信越化学グループのScope3排出量削減に貢献する設計が明示されている点である。これまでの第一回から第七回までの採択案件は、再生可能エネルギー電力を現地電力会社や送電網経由で売電する系統電力代替型が中心であり、サプライヤー専用電源としてScope3削減に直結する案件は本件が初出となる。
信越化学は半導体材料の主要原料であるシリコンウェハーの世界最大手であり、金属ケイ素はその上流原料に位置する。製造プロセスは電力多消費型であり、上流サプライヤー段階での再エネ調達は同社のScope3カテゴリ1(購入した製品・サービス)排出量に直接的な影響を及ぼす。
JCMは現在32か国とのパートナーシップを構築し、290件超のプロジェクトが実施中である。官民連携で2030年度までに累積約1億トンCO2、2040年度までに累積約2億トンCO2の国際的排出削減・吸収量確保を目標としている。
令和7-9年度事業の第一回から第八回までの累積想定削減量は年間約24.7万トンCO2であり、案件種別は太陽光発電・蓄電池の組み合わせが大半を占める。地熱発電(フィリピン)など一部を除き、再エネ電源型に偏った構成となっている。
ただし、JCMクレジットは日本のNDC達成に計上される仕組みであり、企業がScope3削減として主張する場合、パリ協定6条に基づくコリ調整との整合性が論点として残る。本件のように日本企業のScope3削減への貢献が明示される構造では、クレジット帰属と企業の削減主張の関係整理が今後の運用課題となる。
本件は、JCMが日本企業の海外サプライチェーン脱炭素のための公的インフラとして機能しうる可能性を示す事例として位置づけられる。
日本の製造業は素材・部材の上流に海外サプライヤーを多数抱えており、Scope3カテゴリ1の削減は自社努力だけでは到達困難な領域である。JCM設備補助の枠組みを活用して上流サプライヤーの電力脱炭素化に投資し、その効果をクレジット化しつつ自社のScope3削減にも紐づける本件のモデルは、日系製造業の海外サプライチェーン脱炭素戦略における有力な選択肢となりうる。
もっとも、JCMクレジットのNDC計上と企業Scope3クレームの両立には、パリ協定6条下のコリ調整処理の整理が前提となる。年間1.6万トン規模の案件が累積目標1億トンCO2に占める比率は限定的であり、本モデルが普及するには案件規模の拡大と運用ルールの明確化が必要となる。