宮崎県と宮崎ガスは、脱炭素社会の実現に向けた包括的な連携協定を締結した。県内の森林資源を活用した「J-クレジット」の創出と需要拡大を軸に、地域企業へのカーボンオフセット都市ガスの普及や、新たな認証制度の構築を目指す。地方自治体とインフラ企業が連携し、カーボンクレジットの「地産地消」モデルを社会実装する動きとして注目される。
再造林クレジットで「都市ガス」をグリーン化
今回の協定における最大の焦点は、宮崎県内で創出された森林由来J-クレジットを活用した「カーボンオフセット都市ガス」の普及拡大だ。
宮崎県庁ではすでに先行事例として、2025年5月から県庁本館および庭園内のガス燈において、同ガスを導入している。ここで活用されているカーボンクレジットは、森林経営の中でも特に環境価値が高いとされる「再造林活動方法論」に基づいて創出されたものだ。今回の協定により、このモデルを県内の民間事業者へも波及させ、需要側(オフセット利用)と供給側(クレジット創出)の両面から市場を活性化させる狙いがある。
地域企業の脱炭素化を支援する新制度へ
協定に基づく具体的な連携事項として、以下の5点が挙げられた。
- カーボンオフセット都市ガスの普及促進
- 地域事業者に対する脱炭素化支援
- 脱炭素に取り組む事業者への「認証制度」の創設・運用
- J-クレジットの創出と活用の促進
- 脱炭素に関する普及啓発活動
特筆すべきは、脱炭素に取り組む事業者に対する「認証制度の創設」が含まれている点だ。これは、単にカーボンクレジットを売買するだけでなく、オフセット製品を導入した企業を自治体が公的に評価・ブランディングする仕組みを整えることを意味する。中小企業にとってハードルが高い脱炭素化に対し、明確なインセンティブを付与する施策となる可能性がある。
背景と今後の展望
日本国内では、2050年のカーボンニュートラルに向け、地域資源を活用したJ-クレジットの創出が加速している。特に宮崎県のような森林資源が豊富な地域において、再造林コストの捻出は林業の課題であり、カーボンクレジット収益はその解決策として期待されている。
エネルギー供給を担う宮崎ガスが、県産クレジットの「大口の買い手」あるいは「仲介者」としての機能を果たすことで、資金が地域内で循環する経済圏の確立が見込まれる。県は今後、この協定を足がかりに、県内事業者への導入支援を本格化させる方針だ。
今回のニュースは、単なる「自治体と企業の協定」以上の意味を持つ。
第一に、採用されているJ-クレジットの方法論が「再造林」である点。日本のJ-クレジット市場において、再造林由来は環境十全性が高く評価される一方、創出の手間がかかる高品質なカーボンクレジットだ。これを都市ガスという生活・産業インフラとセット販売することで、安定的な需要を確保しようという戦略は、他の地方銀行や地域インフラ企業にとっても有力な参考モデルとなる。
第二に、「認証制度の創設」への言及。多くの中小企業が「コストをかけて脱炭素化しても、誰にも評価されない」というジレンマを抱えている。県がお墨付きを与える認証制度ができれば、地域企業にとっては「選ばれる理由」としての競争力に繋がるため、地域単位での脱炭素対応が起きるトリガーになる可能性があるだろう。
参考:https://www.pref.miyazaki.lg.jp/kankyoshinrin/kurashi/shizen/20251215111028.html

