三井物産は2026年2月9日、バングラデシュにおいて節水型稲作技術(AWD)を用いたメタン排出削減事業を開始したと発表した。
現地の非政府組織(NGO)である「バングラデシュ・ボンドゥ財団(Bangladesh Bondhu Foundation)」と連携し、二国間クレジット制度(JCM)の適用を目指す。2026年4月から本格運用が始まる日本版排出量取引制度「GX-ETS」での活用を見据え、高品質なカーボンクレジットの創出を加速させる。
今回の事業で採用された間断灌漑(AWD)は、水田の水を意図的に抜き、土壌を乾燥させる期間を設ける手法である。
通常、常時湛水(水を張った状態)の水田では、酸素が乏しい嫌気条件下でメタン生成菌が活発化し、強力な温室効果ガスであるメタンを放出する。AWDの導入により土壌へ酸素を供給することで、メタン生成菌の活動を抑制し、従来の農法と比較してメタン排出量を約30%削減することが可能となる。
バングラデシュは世界第3位のコメ生産国であり、特に乾季の灌漑は地下水に依存している。本事業はメタン削減だけでなく、水資源の節約や収穫量の向上といった、現地の適応策・持続可能性にも寄与する。
本事業が目指すJCMクレジットは、日本政府がパートナー国と協力して温室効果ガス削減分を分け合う制度である。日本政府は2030年度までに累積で1億t-CO2程度、2040年度までに累積で2億t-CO2程度の削減・吸収量の確保を目標に掲げている。
特に注目すべきは、2026年4月から本格化する「GX-ETS(第2フェーズ)」との連動だ。同制度においてJCMクレジットは排出枠の補填(オフセット)に利用可能な「適格クレジット」と位置付けられており、企業の排出削減目標達成に向けた需要が急増すると予測されている。三井物産は、バングラデシュでの実績を足掛かりに、アジア圏における農地由来のカーボンクレジット供給網を強固にする構えだ。
三井物産は今後、ボンドゥ財団が持つ1,600名超の従業員網を活用し、地域コミュニティへのAWD普及を拡大する。農業由来のメタン削減は、産業部門の削減に比べてコスト効率が高い「自然資本ベースの解決策(NbS)」として国際的にも評価が高い。
JCMを通じたクレジット創出は、日本の政府目標達成に寄与するだけでなく、日本企業がグローバルなサプライチェーンにおけるScope3の削減や、国内の規制対応を進める上での有力な手段となるだろう。
農業系メタンクレジットは、測定(MRV)の難易度が課題であったが、三井物産のような大手商社が現地NGOと組むことで信頼性が担保される。2026年4月のGX-ETS本格稼働を控え、企業のカーボンクレジット調達競争は「早い者勝ち」の様相を呈している。
特にJCMは日本政府の裏付けがあるため、ボランタリークレジット以上に価格の安定性と信頼性が期待でき、重要な選択肢となるはずだ。
参考:https://www.mitsui.com/jp/ja/topics/2026/1252816_15334.html
