農林水産省は2026年2月9日、農業分野におけるJ-クレジット創出を推進するため、令和8年度の補助事業の公募を開始した。
総額1,500万円の予算で、プロジェクト登録支援と審査機関の能力拡充の2つの枠組みを設け、1件あたり最大300万円を定額補助する。公募期間は3月3日まで。政府は2050年カーボンニュートラル達成に向け、農業分野でもカーボンクレジット市場の活性化を急ぐ。
2026年度から排出量取引制度が本格稼働、需要拡大を見据えた先手
今回の支援事業は「みどりの食料システム戦略」に基づくもので、政府全体の成長志向型カーボンプライシング構想の一環として位置づけられる。特に注目すべきは、2026年度から排出量取引制度が本格稼働することに伴い、J-クレジットの需要が大幅に拡大する見込みであることだ。農林水産省は、農業分野でも外部資金を呼び込み、イノベーション推進と経営改善につなげる狙いがある。
農業分野のJ-クレジット認証量は他分野と比べて著しく少なく、カーボンクレジット創出にかかる高額なコスト負担、審査機関のキャパシティ不足による手続き遅延が課題となっている。このボトルネックを解消するため、プロジェクトの登録・認証プロセス全体を包括的に支援する体制を整備する。
2つの支援枠組み、「創出」と「審査」の両面から市場基盤を強化
支援は2つの類型に分かれる。
「プロジェクト登録・クレジット認証支援型」は、既存の方法論を活用して農業現場で取り組む新規プロジェクトの登録やクレジット認証に必要な計画書作成、審査費用などを支援する。
「審査能力拡充支援型」は、J-クレジット制度の審査機関(妥当性確認機関・検証機関)として農業分野の方法論に基づく審査を検討している事業者に対し、ISO14064-2:2019対応のISO14065:2020認定取得や認定分野拡充に向けた人材育成研修費用を補助する。
応募資格は都道府県、市町村、農林漁業者団体、民間事業者、NPO法人、大学法人など幅広く、コンソーシアムや協議会も対象となる。補助対象経費は謝金、旅費、委託費、備品費など、カーボンクレジット創出に直接関連する費用全般をカバーする。
審査は選定審査委員会が実施し、事業実施主体の適格性、事業内容の妥当性、期待される成果、波及効果などを総合的に評価する。特にプロジェクト登録支援型では、事業期間中にプロジェクト登録申請またはカーボンクレジット認証申請に至る見込みがあること、カーボンクレジットの「付加価値訴求」など取引まで見据えた工夫があることが評価のポイントとなる。
グローバルなカーボンクレジット市場拡大の中、日本の農業が担う戦略的役割
世界的にカーボンクレジット市場は急拡大しており、2030年までに市場規模が現在の50倍以上に達するとの予測もある。欧州を中心に企業の自主的なネットゼロコミットメントが広がる中、高品質で透明性の高いカーボンクレジットへの需要は高まる一方だ。日本政府が2026年度から排出量取引制度を本格稼働させることで、国内のカーボンクレジット需要も構造的に増加する。
農業分野は、温室効果ガス削減だけでなく、土壌炭素貯留など炭素除去(CDR)の潜在力も大きい。バイオ炭施用、不耕起栽培、水田メタン削減など、既にJ-クレジット制度で認められた方法論が複数存在するが、実際の認証プロジェクト数は限定的だった。今回の支援により、これまでコスト面で二の足を踏んでいた中小規模の農業経営体や地域コンソーシアムの参入が期待される。
同省は「みどりチェック」チェックシートの提出を義務付け、環境負荷低減の取り組みを事業期間中に実施させることで、単なる補助金バラマキではなく、実質的な脱炭素化を促す仕組みを導入している。
事業実施主体には事業完了後も成果の報告・公表が求められ、農水省による評価と政策へのフィードバックが行われる。
2026年の排出量取引制度本格稼働を控え、日本のクレジット市場は「創出」から「取引」へと軸足を移しつつある。
今回の支援事業で鍵となるのは、単なる認証取得支援にとどまらず、審査機関の育成という「市場インフラ」整備に踏み込んだ点だ。中小農家にとっては、地域コンソーシアムを組んでプログラム型プロジェクトを構築すれば、スケールメリットによりコストを抑えつつクレジット化できるチャンスが広がる。
バイオ炭や有機農業など「ストーリー性のあるクレジット」は、ESG投資家やサプライチェーン脱炭素を目指す食品企業からのプレミアム需要も見込まれ、新たな収益源として注目される。
参考:https://www.maff.go.jp/j/supply/hozyo/kanbo/260209_303_1.html
