経済産業省は2026年2月5日、産業構造審議会のワーキンググループを開催し、二酸化炭素(CO2)を輸送するCCS導管の技術基準に関する解釈例の方向性案をまとめた。
国内での炭素回収・貯留(CCS)事業の本格化に向け、導管からのCO2漏えい時における人への健康影響評価をプロジェクトごとに義務付ける方針だ。これにより、大気中から回収した炭素を永続的に隔離する炭素除去(CDR)プロセスの安全性と信頼性を法的に担保する土台が整うこととなる。
内面腐食対策と材料選定 不純物による「炭酸」発生を警戒
CCS導管輸送における最大の技術的課題の一つが、CO2に含まれる水分や不純物に起因する内面腐食である。
- 腐食メカニズムの特定
CO2は水と反応して炭酸を生成し、炭素鋼導管を腐食させる。また、不純物として含まれるSOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)も腐食を加速させる要因となる。 - 多層的な防護措置
事業者は材料選定の段階で、ガス工作物技術基準の解釈例に基づく適切な材料を選び、腐食速度に応じた「腐れしろ」の設定や、必要に応じた内面コーティング、防食剤の注入を検討しなければならない。 - 厳格な水分管理
米国カリフォルニア州の基準案などを参考に、流体中の水分量を全体体積比50ppm以下に制限するなどの指針が示された。
漏えいリスク評価の義務化 「1.5%・15分間」を基準値に設定
万が一の漏えい事故に備え、経産省は人への健康影響を回避するための具体的な濃度基準と評価手法を提示した。
- 健康影響の基準値
- 短期間ばく露:15,000ppm(1.5%)で15分間以内 。
- 長期間ばく露:5,000ppm(0.5%)で8時間以内 。
- シミュレーションの原則
事業者はプロジェクトごとに、高低差やくぼ地、周辺の保安物件(学校、病院、民家等)を考慮した拡散シミュレーションを実施しなければならない。 - 認定ソフトの活用
国が妥当性を確認済みの計算モデル(ノルウェーの認証機関DNVが提供する「Phast」等)を使用することが原則とされる。
JOGMECによる実証試験 土壌内でのCO2挙動が判明
JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)は、埋設導管からのCO2漏えい挙動に関する実証試験の中間結果を報告した。28日間にわたる圧入試験の結果、漏えいしたCO2は圧入点から半径約1.25mの範囲に広がり、比重の重さから下部の原地盤へと沈降していく傾向が確認された。
すぐには地上に出ず下方向へ沈降・拡散した。
2026年1月からは、さらに大流量(20,000〜50,000 Ncc/min)での試験を実施し、地表への到達挙動やアスファルト上のセンサによる検知能力を検証する計画である。
産業界への影響と今後の展望
今回の基準案は、ガス事業法や高圧ガス保安法の考え方をベースにしつつ、CO2特有の「高速延性破壊」や「超臨界状態」での挙動を踏まえた専門的な内容となっている。特に海底導管においては、陸上部揚陸部近傍への遮断弁設置などが求められる 。
これらの安全基準の策定は、日本におけるCCS事業の法的リスクを明確化し、カーボンクレジットの創出に必要な「恒久的な貯留」の信頼性を高める。今後は、数値流体解析ソフトを用いた詳細な評価手法や、遮断弁の具体的な設置間隔についての検討が継続される。
今回の発表により、日本のCCS・CDR事業は「構想段階」から「実装のための法整備段階」へと明確に移行した。厳格な安全基準は初期投資を押し上げる要因にはなるものの、高品質なカーボンクレジット(ネガティブエミッション)としてのプレミアム価値を担保するためには不可欠なコストである。
特に地域住民への合意形成において、科学的シミュレーションに基づいた説明が可能になることは、事業推進の大きな追い風となるだろう。
参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/hoan_shohi/carbon_dioxide/ccs/002.html
