経産省、排出量取引制度小委員会が意見とりまとめ GX-ETSが26年度本格稼働 上限価格4,300円で着地、クレジット利用は10%上限

村山 大翔

村山 大翔

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経済産業省の産業構造審議会は12月19日、2026年度から本格稼働する排出量取引制度(GX-ETS)の実施指針に関する中間整理案と、排出枠の取引価格案を公表した。制度の対象は、CO2の直接排出量が3カ年度平均で10万トン以上の事業者とし、約300から400社が参加する見通しだ。

注目の取引価格については、26年度の上限価格(参考上限取引価格)を1トンあたり4,300円、下限価格(調整基準取引価格)を1,700円に設定し、価格の安定化を図る。

排出枠の不足分を補う手段として認められるカーボン・クレジットについては、J-クレジットおよびJCM(二国間クレジット制度)の利用が可能だが、各年度の実排出量の10%を使用上限とする方針が示された。これは諸外国の事例を参考に、排出枠の価格形成を促し、事業者自身の削減インセンティブを確保するための措置である。JCMについては、2020年以前の取組に由来するものは原則使用不可とするなど、最新の環境法制と整合性を図る。

排出枠の割当ては、鉄鋼や電力などのエネルギー多消費分野を中心に、製品生産量あたりの排出原単位に基づく「ベンチマーク方式」が適用される。その他の業種には過去の排出実績に基づく「グランドファザリング方式」が用いられるが、こちらには年率1.7%の削減率が課される。また、制度開始前の2013年度以降に行った早期削減努力については、過去の削減分を基準排出量に加算するなどの評価措置が盛り込まれた。

炭素除去(CDR)や革新的な脱炭素技術への投資を促すための調整措置も導入される。前年度に実施したGX関連の研究開発投資額が業種平均を上回る場合、排出枠の不足分の最大10%を上限に追加割当てを行う仕組みが検討されている。この判定には特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)を活用し、客観的な技術区分に基づいて透明性を確保する。

今後の発展性として、炭素回収・留留(CCS)や二酸化炭素の直接空気回収・貯留(DACCS)、森林吸収などによる削減・吸収価値の扱いについても検討が続く。これらは将来的にJ-クレジットや証書を通じた制度への取り込み、あるいは算定対象活動への追加が検討される見通しだ。GX推進機構は2027年度秋頃に排出枠取引市場を開設し、公正な価格公示機能の提供を目指す。

今回の指針策定により、日本のカーボンプライシングは「試行」から「義務」のフェーズへ決定的な一歩を踏み出した。特筆すべきは、クレジット利用の上限を10%と厳格に定めた点だ。

これにより、企業は安易なクレジット購入に頼るのではなく、自社設備での直接削減やCDR技術への投資を優先せざるを得なくなる。また、特許情報を割当基準に紐づける試みは、知財競争力を脱炭素コストの緩和につなげる日本独自のユニークな産業政策と言える。

今後は、2029年度から導入予定の「合理的水準」の第三者検証に耐えうるデータ管理体制の構築が、企業の喫緊の課題となるだろう。

参考:https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/emissions_trading/20251219_report.html