養豚経営のDXと環境負荷低減を推進するEco-Pork(エコポーク)は11月28日、エクイティおよびデットファイナンスによる追加資金調達を完了し、補助金等を含む累計調達額が53億円に達したと発表した。今回のラウンド単体での調達総額は14億円。同社は獲得した資金を、AI(人工知能)やIoTを活用した生産管理技術の高度化に加え、国内で唯一承認されている養豚分野のカーボンクレジット事業の拡張に充当する方針だ。
データ駆動による「環境価値」の創出
今回の資金調達は、既存投資家の慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)に加え、カクイチ、ひがしん、マネーフォワード代表取締役社長の辻庸介氏らが引受先となった。また、Siiibo証券を通じた社債発行や金融機関からの借入も組み合わされた。
Eco-Porkの戦略の中核にあるのは、養豚DXによる生産性向上を「環境価値」へと転換するモデルである。同社は2024年、国の温室効果ガス(GHG)排出削減・吸収量を認証する「J-クレジット制度」において、養豚を対象としたプログラム型プロジェクトの運用を日本で初めて開始した。
養豚業においては、飼料の生産・輸送や家畜の排泄物処理プロセスから多量のGHGが排出される。Eco-Porkのクラウド型システム「Porker(ポーカー)」やAIカメラ「PigDataStation」は、豚の体重推計や飼育状況を精緻にデータ化し、給餌の最適化や出荷時期の適正化を実現する。これにより、余分な飼料消費や飼育期間の短縮が可能となり、結果としてGHG排出量の削減につながる仕組みだ。
今回の資金は、こうしたデータ計測技術のさらなる高度化と、カーボンクレジット創出基盤の拡大に投じられる。正確なデータに基づく信頼性の高いカーボンクレジットを創出することで、農家に新たな収益源をもたらし、環境対策資金が循環する経済圏の構築を目指す。
深刻化する「タンパク質危機」と気候変動
背景には、世界的な食料需給の逼迫と気候変動対策の遅れがある。世界のタンパク質需要は年平均2.5%で増加しているが、供給の伸びは2.0%にとどまり、2027年にも需給バランスが崩れる「タンパク質危機」が懸念されている。また、農業・畜産分野は世界のGHG排出量の約22%を占める主要な排出源であるにもかかわらず、気候変動対策資金の流入は全体の約4.3%と極めて限定的である。
Eco-Porkは、デジタル技術で生産効率を高めることで食料供給の安定化を図ると同時に、カーボンクレジットを活用して気候変動対策資金を一次産業へ呼び込む「二兎を追う」戦略をとる。
ウクライナ支援とCOP30見据えた海外展開
同社は国内シェア約15%の基盤を足がかりに、海外展開も加速させる。米国で開催された世界最大規模の養豚展示会「World Pork Expo」への出展に加え、戦時下にあるウクライナの養豚産業復興支援にも着手した。
さらに、ブラジルで開催予定のCOP30や日ASEANシンポジウムへの参加を通じ、グローバルなルール形成の場でも存在感を高める狙いだ。
Eco-Pork代表取締役の神林隆氏は、「テクノロジーとデータの力で養豚を再構築し、生産性向上と環境負荷低減の両立に挑んできた。今回の調達を通じて挑戦を拡大し、人と食と環境が調和する畜産の未来を形にする」とコメントした。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000047724.html
