カーボンダイレクト(Carbon Direct)は5月28日、農業残渣をCDRの原料として調達する際の指針「CDR向け持続可能な農業バイオマス調達ガイド」を公開した。マイクロソフト(Microsoft)とストライプ(Stripe)が大口買い手の署名者として参画し、農業残渣の調達を対象とする世界的にも初期の枠組みの一つとなる。
正式な認証制度が整うまでの暫定的なリスク管理ツールとの位置づけで、買い手と開発者がデューデリジェンスやオフテイク契約に組み込める具体的な基準を提供する。
バイオマス由来CDRは、2025年に契約された高耐久性CDRの95%超を占める。
BECCSやバイオ炭を含むBiCRSが耐久性の高い除去の主流を成す一方、農業残渣を単なる「廃棄物」とみなす前提には無理があるとガイドは指摘する。コーンストーバーやもみ殻といった残渣は、土壌の健全性維持や家畜飼料、地域のエネルギー源として既存の経済的・生態的価値を担っており、安全策を欠いた転用は開発者と買い手の双方にリスクをもたらす。
ガイドはトレーサビリティ、コミュニティと労働者の保護、土壌・環境の保護、市場健全性の4原則を柱に据える。ガバナンス能力や腐敗リスク、土地保有制度、データ可用性が地域ごとに大きく異なることを前提に、多様な地理的条件への適用を意図して設計された。
農業残渣のサプライチェーンは、小規模生産者や協同組合、集荷業者を多数介する断片的な構造を取りやすく、原料の出所が不透明になりやすい。ガイドはこの課題に対し、出所からCDR転換地点までの追跡を求め、分別管理、マスバランス、監査可能な追跡プログラムの3方式を供給網の複雑さに応じて選べる設計とした。
立証の厳格さは、3段階の保証段階(Assurance Tier)でガバナンスリスクに応じて調整する。腐敗認識指数や世界ガバナンス指標などの国レベル指標に、サプライチェーンの複雑さや仲介業者数といったプロジェクト固有の要素を加味して立証水準を決め、指標が相反する場合は上位段階を選ぶよう求めている。
炭素会計の面では、残渣の持ち出し率(Take Rate)の上限を乾燥作付体系で30%とし、本来は土壌に戻されていたはずの残渣を転用する場合は土壌有機炭素(SOC)の控除を純CDR量に適用するよう定める。控除幅は13〜29%とされ、生成量の算定に直接影響する。
社会・市場の面では、先住民族が利用・占有する土地ではFPIC(自由意思に基づく事前同意)の取得を必須とし、慣習的利用を損なわないことを求める。あわせて残渣の経済価値が作物総価値の10%以下にとどまることを要件とし、残渣需要が作付拡大や生産強化を誘発しないための歯止めを置く。
本件は、急拡大するバイオマス由来CDRに対し、買い手と開発者が契約に直接組み込める調達規律を体系化した枠組みとして位置づけられる。
注目すべきは、公的認証が未整備の領域で、マイクロソフトやストライプといった大口買い手が署名者として自主基準の形成を主導した点にある。需要側が調達要件を契約条項に落とし込むことで、認証制度の確立を待たずに市場の事実上の基準が先行して定まる構図となる。
ただし、本ガイドは強制力を持たない暫定的なツールであり、適用の厳格さは買い手と売り手の合意に委ねられる。ガバナンスリスクに応じて立証水準を変える保証段階の設計は、地域差を前提とする一方で、低ガバナンス地域での運用が過度な立証負担を通じて事実上の調達回避につながる可能性も残す。
新興国を含む断片化したサプライチェーンでは、原料の出所をどこまで遡れるかが、生成されるカーボンクレジットの信頼性を直接左右する。トレーサビリティと現地ガバナンスの確かさこそが、バイオマスCDRの規模拡大が質を伴うものになるかを分ける。
参考:https://www.carbon-direct.com/research-and-reports/agricultural-biomass-sourcing-for-cdr-2026