出光興産が米海藻テックに出資 ブルーカーボンクレジット創出を加速

村山 大翔

村山 大翔

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出光興産は12月23日、高い二酸化炭素(CO2)吸収能力を持つ海藻の養殖技術を有する米国スタートアップ、シンブロシア(Symbrosia, Inc.)への出資を完了したと発表した。

米国ハワイ州を拠点とする同社の知見を取り入れ、海洋生態系を活用した炭素除去(CDR)であるブルーカーボン事業の構築を本格化させる。同社は北米を起点とした炭素回収・利用(CCU)のビジネスモデルを確立し、将来的な日本国内への展開とカーボンクレジット創出を目指す。

今回の投資は、出光興産の全額出資子会社である出光アメリカズホールディングス(IAH)を通じて実施された。シンブロシア社は、カギケノリ(赤海藻)の高度な養殖技術と、それを原料とした家畜用飼料添加物「シーグレイズ(SeaGraze)」の製造プロセスに強みを持つ。カギケノリは成長過程で多量のCO2を吸収するだけでなく、家畜に与えることで牛などの反芻動物から排出されるメタンガスを大幅に削減する効果がある。

出光興産は2023年8月、海洋資源分野の投資会社であるハッチ・ブルー(Hatch Blue)に出資し、国内沿岸部でのブルーカーボン事業の検討を開始していた。今回のシンブロシアへの出資は、ハッチ・ブルーとの共同検討から浮上した案件であり、同社の技術を日本国内の海域へ導入することも視野に入れている。同社はバイオ製品の市場開拓に加え、海藻によるCO2吸収量を定量化し、高品質なカーボンクレジットとして価値化する道筋を探る。

出光アメリカズホールディングスの杉原啓太郎社長兼最高経営責任者(CEO)は「ネガティブエミッション分野のスタートアップの中で、シンブロシアはコスト効率に優れたメタン削減策という独自の地位を築いている。経済的なCO2有効利用や、カーボンクレジット分野での協業可能性を追求したい」と述べた。また、シンブロシアのアレクシア・アクバイ(Alexia Akbay)最高経営責任者(CEO)兼創業者は、出光のCCU市場における知見が、同社の事業基盤拡大に重要な価値をもたらすと指摘した。

ブルーカーボンは、森林による「グリーンカーボン」に続く新たな吸収源として世界的に注目されている。しかし、養殖コストや吸収量の計測手法の確立が課題となってきた。出光興産は今回の出資を通じて、家畜飼料という実益を伴う製品と、環境価値であるカーボンクレジットを組み合わせた多角的な収益モデルの構築を急ぐ。同社は今後、シンブロシアとの具体的な事業連携の内容を精査し、2026年以降の日本国内での実証試験に向けた準備を進める方針である。

今回の出光興産による出資は、単なる「環境貢献」ではなく、戦略的な「クレジット創出の経済性確保」を狙ったものと読み解ける。

ブルーカーボン事業は、森林クレジットに比べて吸収効率が高い一方で、維持コストがハードルとなり、クレジット単価が高騰しやすい課題があった。しかし、シンブロシアのモデルは「メタン削減飼料」という実売製品を持つことで、クレジット販売だけに頼らない多層的な収益構造(スタッキング)を可能にする。

これは、昨今の「炭素除去(CDR)の経済合理性」を求める投資トレンドに合致してる。2023年のハッチ・ブルーへの出資から、今回の個別技術への直接投資へとフェーズが移行したことは、出光が日本沿岸部での「和製ブルーカーボンクレジット」の商用化に向け、本腰を入れた証左と言えるだろう。

今後は、日本国内の漁業権や海域利用の規制に対し、同社がどのように技術を適応させていくかが、事業スピードを左右する鍵となります。

参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000622.000023740.html