地球温暖化対策として「カーボンクレジット」の重要性が論じられている。これは企業や自治体、NGOなどが温室効果ガスの排出をオフセットするための手段として用いられる仕組みである。
本記事では、カーボンクレジットの基本概念から仕組み、関連用語について解説する。
カーボンクレジットとは
カーボンクレジットとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)排出量を「1トン分」削減、または吸収したことを証明する証書(クレジット)である。
正式には「1 carbon credit = 1 metric ton CO2 equivalent(t-CO2e)」と定義され、GHGの種類ごとに異なる温室効果を換算して合算する。例えば、メタン(CH4)は二酸化炭素より約25倍強力な温室効果を持つため、1トンのメタン排出削減は、25トンのCO2e削減に相当する計算となる。
創出の仕組み
カーボンクレジットは、主に以下のプロセスを経て発行される。
まず、森林再生プロジェクトや再生可能エネルギー設備の導入など、GHGの排出抑制や大気中からの吸収を行う活動(プロジェクト)が実施される。
次に、第三者機関による測定・報告・検証(MRV)プロセスを経ることで、計画通りに削減・吸収が達成されたかが確認される。この審査に合格すると、プロジェクトの規模に応じたカーボンクレジットが発行され、売買可能な資産として市場に流通する。
市場の種類
カーボンクレジットの取引市場は、大きく二つに分類される。
コンプライアンスカーボンクレジット市場
政府や国際機関が定めた「排出量取引制度(ETS)」の枠内で取引される市場である。法律等により企業へ排出上限が課され、上限を超過した場合にクレジットを購入して帳尻を合わせるために利用される。
ボランタリーカーボンクレジット市場
排出削減義務のない企業や個人が自主的に購入する市場である。主にサステナビリティ活動の一環や、環境配慮への取り組みを示す目的で利用される。
信頼性の担保
カーボンクレジットの価値は、その信頼性に依存する。重要となるのは認証基準とプロジェクトの透明性である。
認証機関による審査が厳格であるか、プロジェクト前後の排出量・吸収量が正確に公開されているか、そして定期的な第三者監査が実施されているかを確認する必要がある。また、同一の削減量が複数の主体によって二重に計上される「ダブルカウンティング」を防ぐ仕組みが整備されていることも不可欠である。
課題と技術的展望
カーボンクレジットには、プロジェクトの質、価格の適正性、地域社会への影響といった課題が存在する。特に森林保全プロジェクトにおいては、地権者との合意形成や長期的な管理体制の維持が問われる要素となる。
一方で、大気中から直接CO2を回収する直接空気回収(DAC)や、海藻を活用したCO2吸収技術(ブルーカーボン)などの技術開発も進められている。これらは、従来の森林由来などに加わる新たな選択肢として位置づけられる。
まとめ
カーボンクレジットの活用にあたっては、自らの排出量を正確に把握し、目的に合致した適切なクレジットを選択することが重要である。信頼できる認証機関のプロジェクトを選定し、その効果を確認することで、実質的な環境負荷低減に寄与できる。
カーボンクレジットは万能な解決策ではないが、地球規模でのGHG削減に向けた有効なツールの一つである。

