ワイオミング州の石炭火力CCS義務、廃止案が否決

村山 大翔

村山 大翔

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7月30日、アメリカ・ワイオミング州議会の委員会で、石炭火力発電所への炭素回収設備(CCS)導入を義務づける州法の廃止案が否決されたと複数のメディアが報じました。下院議員の多くが廃止を支持した一方、上院の反対で前に進まず。住民の負担が増すなか、技術の実用化が見通せないまま議論は続いている。

アメリカ西部のワイオミング州で、石炭火力発電所に炭素回収設備(CCS)の導入を検討することを義務づけた法律の廃止案が、議会の委員会で否決された。

7月30日に開かれた合同委員会では、下院議員8人中7人が廃止に賛成したが、上院議員5人のうち賛成は1人にとどまり、廃止案は前に進まなかった。

この法律は2020年に成立し、州内の電力会社に対し、石炭火力へのCCS導入が実際に可能かどうかを調査するよう求めている。

しかし、導入に向けた調査はすでに多額の費用を生んでいる。

州内最大の電力会社、ロッキー・マウンテン・パワー(Rocky Mountain Power)は、これまでに約390万ドル(約5億9,000万円)を顧客の電気料金から回収。チェイエン・ライト(Cheyenne Light)も約88万ドル(約1億3,000万円)を使ったが、いずれも「実用的な解決策はまだ見つかっていない」としている。

ブラック・ヒルズ・エナジー(Black Hills Energy)によると、最も有望とされたCCS技術を導入するには、ギレット近郊の発電所で500万ドル(約750億円)の費用が必要になり、発電量も30%以上落ちる見通しだという。

こうした現状に対し、廃止案を提出したクリストファー・ナップ下院議員は、「州民に高い電気代を負担させるだけの、見通しのない研究にお金を使い続けるべきではない」と訴えている。ナップ議員は、来年の議会で改めて廃止案を提出する考えも示した。

一方、ゴードン州知事の政権は、この法律を「ワイオミング州の石炭産業を守るために必要」として支持している。政策顧問のランドール・ルティ氏は「州外の石炭輸入先で再生可能エネルギーの基準が強まる中、CCSがあれば石炭の需要を維持できる」と述べた。

現在、ワイオミング州では3カ所の発電所、計5基の石炭火力発電機でCCSの調査が行われている。調査の費用として、すでに毎年約3億円が電気料金に上乗せされており、将来的には年1,500万〜3,000万ドル(約22億〜45億円)に増える可能性もある。

議論の背景には、連邦レベルでの環境規制の後退もある。同日には米環境保護庁(EPA)が、オバマ政権時代の温室効果ガス(GHG)規制を撤廃する方針を発表した。

今後、商業化の見通しが立たないまま費用が増え続ければ、CCS義務の是非をめぐる対立はさらに激しくなる可能性がある。次の州議会は2026年初めに予定されている。