米WPI、CO2を吸収・固定する新建材「ESM」を開発 酵素技術でコンクリート代替とCO2除去を実現

村山 大翔

村山 大翔

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米ウースター工科大学(Worcester Polytechnic Institute、WPI)の研究チームは12月5日、酵素反応を利用して二酸化炭素(CO2)を固定するカーボンネガティブな新型建設資材「ESM(Enzymatic Structural Material)」を開発したと発表した。世界のCO2排出量の約8%を占めるとされる従来のコンクリートに対し、ESMは製造過程でCO2を吸収・鉱物化して固定する性質を持ち、建設分野における実用的な炭素除去(CDR)ソリューションとして期待が高まっている。本研究成果は学術誌『Matter』に掲載された。

1立方メートルあたり6キログラムのCO2を固定

WPI土木・環境・建築工学科の学科長を務めるニマ・ラーバー(Nima Rahbar)教授率いる研究チームが開発したESMは、生物学的プロセスに着想を得た酵素技術を基盤としている。この酵素はCO2を固体の鉱物粒子へと変換する触媒として機能し、これらを結合させることで高い強度を持つ構造材を形成する。

特筆すべきは、その炭素収支の逆転だ。一般的なコンクリートは1立方メートルの製造に際して約330キログラムのCO2を排出するが、ESMは同量を製造する過程で6キログラム以上のCO2を隔離・固定する。建設資材そのものが炭素の貯蔵庫として機能するため、建設業界の脱炭素化を根本から変革する可能性がある。

ラーバー教授は、「我々のチームが開発したのは、単に排出を減らすだけでなく、実際に炭素を回収する実用的でスケーラブルな代替手段だ」と強調。「世界の建設工事のほんの一部でもESMのようなカーボンネガティブ素材に移行すれば、そのインパクトは甚大になるだろう」と指摘した。

低温・短時間での製造が可能、循環型経済にも寄与

ESMの利点は環境性能だけにとどまらない。従来のコンクリートが高温での焼成や数週間に及ぶ硬化期間を要するのに対し、ESMは穏やかな条件下で製造でき、数時間以内に構造形態へと成形・硬化させることが可能だ。この迅速な硬化特性は、製造エネルギーの削減に寄与するだけでなく、災害復旧などスピードが求められる現場での活用も視野に入る。

また、ESMは再生可能な生物由来の原料を使用しており、リサイクルや修理が容易である点も特徴だ。WPIチームによると、破損時の修復性が高いため建物の長期的な維持コストを削減できるほか、廃棄される建設資材の埋立処分量を大幅に減らすことができるという。

建設セクターにおけるCDR実装の展望

カーボンクレジット市場や気候テック業界において、建設資材へのCO2固定(炭素鉱物化)は、永続性の高い炭素除去手法として注目を集めている領域だ。

ESMは屋根デッキ、壁パネル、モジュラー建築部材など、現実的な用途に適した強度と耐久性を備えているとされる。アフォーダブル住宅(手頃な価格の住宅)の供給から気候変動に強いインフラ整備まで、ESMの応用範囲は広く、カーボンニュートラルなインフラ構築とサーキュラーエコノミーの実現に向けた重要な技術要素となりそうだ。

参考:https://www.wpi.edu/news/carbon-negative-building-material-developed-worcester-polytechnic-institute-published-matter