10月28日、バルチラ(Wärtsilä Corporation)は、国際海事機関(International Maritime Organization、IMO)での船舶排出に対するグローバル炭素価格の導入が1年延期された後も、海運の脱炭素は進むとの見方を崩していない。ハーカン・アグネヴァル社長兼最高経営責任者は「『脱炭素の旅は続く』。船主は将来の燃料を見極めるまで燃料の柔軟性と燃費効率を求めている」と述べ、2025年7〜9月期(第3四半期)の受注は17億9,000万ユーロ(約3,150億円)と市場予想を小幅に下回ったが、IMOの先送りによる受注悪化は確認していないと強調した。
同社は船舶・発電向けの排出削減技術に投資しており、IMOの気候計画の下で需要拡大を見込む。一方で、米国の輸入関税と外国関係者(Foreign Entity of Concern、FEOC)規制の影響で、エナジー・ストレージ(蓄電)事業の受注が圧迫されている。蓄電は再エネ統合を支える基盤であり、合成燃料や岸電の普及、さらには船舶のオンボード・カーボンキャプチャー運用にも波及するため、海運の脱炭素ロードマップ全体に連動したリスクとなる。
第3四半期の主要業績は、売上高16億3,200万ユーロ(約2,872億円、前年同期比5%減)、比較可能営業利益1億9,500万ユーロ(約343億円、同10%増)、営業キャッシュフロー3億4,000万ユーロ(約598億円)。サービス売上は増加したが、エネルギー機器の引き渡し時期の影響で機器売上が減少した。受注残は86億3,700万ユーロ(約1兆5,200億円)に増加した。
市場動向として、海運は新造価額の高止まりや一部セグメントの需要鈍化で発注が総じて減速する一方、代替燃料対応船の需要は堅調で、2025年の契約容量の48%を占める。バルチラはハイブリッド、代替燃料対応エンジン、カーボンキャプチャーなど燃料多様化と効率化の両面でポートフォリオを拡充し、地域別に進む炭素価格の「モザイク化」—例えば欧州連合排出量取引制度(EU Emissions Trading System、EU ETS)の海運適用—に合わせた最適解を提示する構えだ。
エネルギー市場では、電化とデータセンター需要の拡大に伴い柔軟性電源の需要が増加。同社は米国で東ケンタッキー配電協同組合向けに217メガワットの発電設備案件を獲得するなど、ガス・デュアルフューエル機の案件が動いている。もっとも、蓄電事業は米国の追加関税・FEOC規制で競争環境が悪化し、2026年納入分の受注積み上げが課題となる。
今後12カ月の見通しは、海運と蓄電で「前年より良好」、エネルギーは「同程度」。ただし地政学・通商の不確実性や関税の行方が投資判断の先送りリスクを高める。IMOのネットゼロ枠組み採択は2026年に再審議される予定であり、各地域の炭素価格制度が先行する中、船主の燃料選択リスク回避(ヘッジ)需要が当面の受注を下支えする構図だ。