英国発電大手VPIは、ノースリンカンシャー州イミンガム発電所に導入予定のアミン吸収式炭素回収技術について、英環境庁(Environment Agency)から国内初の環境許可を正式に取得した。併せて同州議会からの計画承認も受け、年間最大330万トンのCO2回収を目指す。捕集した炭素は「ヴァイキングCCS」ネットワークに輸送・貯留され、ハンバー地域を英国CCS産業の中核拠点とする狙いだ。
英国の炭素回収・貯留(CCS)政策において、ハンバー地域が先頭に立つ動きが鮮明になった。VPIは10月6日、同社のイミンガム熱電併給所(Immingham Combined Heat and Power Plant)に導入する炭素回収装置について、環境庁から完全な設置許可を取得したと発表した。使用されるのは、シェル(Shell)が特許を持つアミン吸収式「カンソルブ(Cansolv)」技術で、稼働中の発電所へのレトロフィット(改修導入)としては英国初の事例となる。
VPI開発・実施ディレクターのジョナサン・ブリッグス氏は「政府が目指す英国CCS産業の発展には、適切な場所で適切な案件を迅速に進めることが不可欠だ。今回の許可と計画承認は、ハンバーをこの新産業の中心地とする重要な一歩だ」と述べた。
この計画により、年間約330万トンのCO2が回収され、ヴァイキングCCSネットワークに接続される。同ネットワークは近隣の製油所や港湾施設からの排出を集約し、北海海底へ輸送・貯留する構想である。
財務省(UK Treasury)はすでにこの構想を支援しており、レイチェル・リーブス財務相は包括的歳出見直し(Comprehensive Spending Review)で同プロジェクトに言及した。政府は2035年までに産業部門の排出量を70%削減する方針を掲げており、ハンバー地区のCCS推進はその中核に位置づけられている。
VPIによると、このプロジェクトは新設発電所を建設するよりも低コストで既存設備を脱炭素化できるうえ、約200億ポンド(約3.8兆円)の民間投資を呼び込み、最大2万人の雇用を創出する見込みだ。さらに、2026年4月までにヴァイキングCCSの「アンカー排出源」として正式認定を受け、次段階の共同資金提供を目指す。
VPIは2013年にコノコ・フィリップスからハンバー河口の発電資産を取得して以降、欧州有数の発電拠点を運営してきた。同社は現在、バッテリー貯蔵や再エネ統合に対応するピーク電力供給設備の増強も進めており、「ネットゼロ実現に向け、炭素回収を組み込んだ柔軟な発電システムを構築する」としている。
今回の許可取得により、ハンバーはテサイドやアバディーンシャーなどと並ぶ英国主要CCSクラスターの最前線に立つことになる。最終投資決定は現政権下で行われる予定であり、英国のカーボンマネジメント戦略における試金石となりそうだ。
参考:https://vpi.energy/news/vpis-humber-project-becomes-the-first-in-the-uk-to-obtain-consents-for-market-leading-ccs-technology/