米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は2026年1月7日、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)および気候変動に関する政府間パネル(IPCC)からの脱退を指示する大統領覚書に署名した。
この決定により、米国は30年以上の歴史を持つ同条約から離脱する初めての国となり、世界のエネルギー市場や気候資金の配分に関する決定権を事実上放棄することになる。離脱は条約の規定に基づき、正式な通知から1年後の2027年1月に発効する見通しだ。
トランプ大統領が署名した覚書は、UNFCCCを含む「米国の利益に反する」と見なされた66の国際機関および条約への参加停止と資金拠出の打ち切りを命じるものである。これにより、米国はパリ協定の運用ルールや、カーボンクレジットの国際取引を規定する第6条の交渉プロセスから完全に排除される。二酸化炭素除去(CDR)技術の標準化や、炭素市場の透明性を確保するための国際的な枠組みにおいても、米国は「ルール形成者」から「ルール受容者」への転落を余儀なくされる。
今回の離脱は、米国のクリーンエネルギー産業に深刻な影響を及ぼすと懸念されている。米国が不在となることで、クリーンエネルギーのサプライチェーン構築や炭素金融の規格策定における主導権は、中国や欧州連合(EU)へと移行する。これまで米国が主導してきた数千億円規模の気候資金や投資の割り当てについても、今後は米国の国益を反映させることが不可能となる。
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長のサイモン・スティール(Simon Stiell)氏は8日、「今回の退歩は米国の経済や雇用、生活水準を損なうだけである」と述べた。同氏は、再生可能エネルギーが化石燃料よりも安価になる中で、米国が自ら経済的優位性を手放す「巨大なオウンゴール」であると指摘し、気候災害によるインフラ被害や食料価格の高騰が米国の家計を直撃すると警鐘を鳴らした。
世界資源研究所(WRI)米国ディレクターのデビッド・ウィダウスキー(David Widawsky)氏は、「UNFCCCからの脱退は、何も得ることなく米国の優位性を放棄する戦略的ミスである」との声明を発表した。同氏は、他国がクリーンエネルギー経済を通じて雇用と富を創出する一方で、米国企業が経済的な地歩を失うリスクを強調した。
一方、米国の州知事や市長らによる超党派の連合体は、独自に気候変動対策を継続し、連邦政府による資金不足を補う方針を表明している。欧州連合(EU)や日本などの主要経済国もUNFCCCへの残留と国際協調の維持を再確認した。国際社会は今後、2027年1月の正式脱退に向けた米国内の法的議論と、炭素市場への具体的な影響を注視することになる。
今回の米国によるUNFCCC脱退は、カーボンクレジット市場にとって歴史的な転換点となる。
特に注目すべきは、パリ協定第6条に基づく「国連主導の炭素市場」と、米国が独自に進めるであろう「民間・相対ベースの炭素市場」の二極化だ。
米国企業は今後、国際的な公式枠組みから外れた状態でCDR技術やクレジットの輸出を行わなければならず、二重計上防止などの信頼性担保において不利な立場に置かれる可能性がある。一方で、日本にとっては、米国不在の枠組みの中でアジア勢と連携し、J-クレジット制度などをベースとした地域的な炭素市場の主導権を握る大きなチャンスとも言える。
米国という巨大プレーヤーの「退場」は、市場の混乱を招く一方で、新たなルール形成の空白地帯を生み出している。
参考:https://www.wri.org/news/statement-united-states-withdraws-unfccc


