カリフォルニア州、コロラド州、ワシントン州を中心とする全米13州の連合体は2026年2月18日、トランプ政権がクリーンエネルギーおよびインフラ関連予算を不当に凍結・解約したとして、連邦地裁に提訴した。
原告側は、米国議会が承認した「インフレ抑制法(IRA)」や「超党派インフラ法(BIL)」に基づく数十億ドルの資金が、政権の政治的意図によって石炭火力発電の維持などに転用されていると主張している。
CDRおよびCCUS予算の「剥奪」の実態
今回の訴訟において最大の論点となっているのは、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)や直接空気回収(DAC)などの炭素除去(CDR)技術に割り当てられていた予算の行方である。
米エネルギー省(DOE)は、本来クリーンエネルギーのデモンストレーションに充てられるべき約6.25億ドル(約938億円)を、稼働停止予定の石炭火力発電所の再稼働や近代化改修に転用したとされる。
特に、コロラド州ではコロラド州立大学(Colorado State University)が進めるメタン排出削減プロジェクトへの3億ドル(約450億円)や、コロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)による炭素貯留ハブ構築のための3,200万ドル(約48億円)が事実上停止状態にある。
また、カリフォルニア州のARCHES(Alliance for Renewable Clean Hydrogen Energy Systems)に配分される予定だった12億ドル(約1,800億円)の水素ハブ予算もカットの対象となっており、脱炭素インフラの根幹を揺るがす事態となっている。
民主党上院議員らも追及 法執行の正当性を問う
この動きに呼応し、パティ・マレー上院議員(Patty Murray)やマーティン・ハインリッヒ上院議員(Martin Heinrich)ら民主党幹部は、クリス・ライト(Chris Wright)エネルギー長官に対し調査状を送付した。議員らは、DOEが「CCUSの導入」を条件とせずに、石炭火力発電所の「信頼性向上」名目で資金を拠出していることを問題視している。
米議会が制定した法律では、これらの資金は排出削減と環境保護を目的としたものである。
これに対し、トランプ政権は「その他の取引権限(Other Transaction Authority)」を根拠に予算の再配分を正当化しているが、議員側は「大統領が個人の政策嗜好で、法律で定められた支出を拒否することは憲法違反である」と強く非難している。
今後の展望と総額76億ドルの不確実性
現在、争点となっている予算総額は全米で23億ドルから76億ドル(約3,450億円〜1兆1,400億円)に上ると推定される。米連邦会計検査院(GAO)が今回の予算転用を「反不足法(Antideficiency Act)」違反と判断した場合、資金を受け取った企業や自治体は将来的に全額返還を求められるリスクがある。
今後、裁判所が「憲法上の予算編成権」をどのように解釈するかが焦点となるが、訴訟が長期化すれば、米国内のカーボンクレジット創出プロジェクトやCDR技術の実証実験は大幅な遅延を余儀なくされる見通しだ。
米国における脱炭素予算の「石炭回帰」への転用は、現地のCDR/CCUSプロジェクトに依存する日本企業にとって極めて高いカントリーリスクとなっている。連邦レベルの支援が不透明化する中、企業は州政府独自の補助金スキームや、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)への直接投資など、連邦予算に依存しないポートフォリオへの再編を検討すべき局面である。
