米2025年GHG排出量は2.4%増加 「AI需要とクリーン燃料減税失効」が再結合を招く

村山 大翔

村山 大翔

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米国の独立系調査機関ロジウム・グループ(Rhodium Group)は2026年1月13日、2025年の米国の温室効果ガス(GHG)排出量が前年比で2.4%増加したとの推計を発表した。過去2年間の減少傾向から一転し、排出量の伸びが実質GDP成長率の推計1.9%を上回る「経済成長と排出量の再結合」が起きた格好だ 。

背景にはAIデータセンターの拡大に伴う電力需要の急増と、トランプ政権下でのクリーン燃料減税の失効に伴うバイオ燃料からの離脱がある。

部門別の動向では、ビル部門が前年比6.8%増、電力部門が3.8%増となり、全体の排出量を押し上げた。ビル部門では、2025年初頭の記録的な寒波により暖房用の化石燃料消費が急増した。

電力部門では、AIデータセンターや暗号資産マイニングによる電力需要の拡大に加え、天然ガス価格が前年比で58%高騰した影響で、排出強度の高い石炭火力発電が13%増加した。石炭火力が増加に転じるのは過去10年で2度目の異例の事態であり、長期的な減少トレンドにブレーキがかかっている。

輸送部門では、排出量は0.1%増とほぼ横ばいだったが、燃料構成に深刻な変化が生じている。2025年予算調整法による「45Zクリーン燃料生産税額控除」の失効を受け、バイオマス由来ディーゼルの消費が34%も急減した。これにより、代替として石油由来ディーゼルの消費が2%増加しており、航空燃料(SAF)など次世代燃料へのクレジットインセンティブが機能不全に陥るリスクを浮き彫りにした。

トランプ政権による環境規制の撤廃と、電気自動車(EV)購入支援策の打ち切りも、今後の排出量削減ペースを鈍化させる要因となる。ロジウム・グループは、2035年時点の排出削減目標を、従来の「2005年比38〜56%減」から「26〜35%減」へと大幅に下方修正した。これは、過去15年間の削減ペースを下回る深刻な減速を意味しており、パリ協定からの再離脱と相まって、米国の脱炭素化は重大な局面を迎えている。

さらに、トランプ政権によるデータの透明性軽視が、カーボンクレジット市場の信頼性を根底から揺るがしている。

米連邦環境保護局(EPA)によるGHGインベントリの年次報告や主要施設からの排出データ収集が停止・遅延しており、科学的な排出量の把握が困難になりつつある。世界第2位の排出国である米国の正確なデータが欠如することは、ボランタリーカーボンクレジット市場におけるプロジェクトのベースライン算定や、企業の正確な排出量開示を阻害する「情報の不透明化」を招くことが懸念される。

今回の報告で最も注視すべきは、バイオ燃料向けの税額控除(45Z)失効がもたらした「脱炭素燃料からの逆噴射」である。これは、政策的なインセンティブがカーボンクレジットや低炭素燃料の普及にいかに不可欠であるかを証明した。

また、EPAによるデータ収集の停止は、クレジットの信頼性の根幹であるMRV(計測・報告・検証)の国家基盤が揺らぐことを意味する。民間主導のVCMは、今後、政府データに頼らない独自の衛星モニタリングや第三者認証への依存度をさらに高める必要に迫られるだろう。

参考:https://rhg.com/research/us-greenhouse-gas-emissions-2025/