米国連邦議会において2026年2月25日、海洋炭素除去(mCDR)の研究開発を包括的に支援する初の法案「ReSCUE法(Removing and Sequestering Carbon Unleashed in the Environment and Oceans Act)」が提出された。
リサ・マコウスキー上院議員(共和党・アラスカ州)やブライアン・シャーツ上院議員(民主党・ハワイ州)ら超党派のグループによるこの動きは、海洋を活用した炭素除去技術の安全性と有効性を科学的に立証し、将来的なカーボンクレジット市場における信頼性の高い供給源を確保することを目的としている。
本法案は、海洋アルカリ度高揚(OAE)から沿岸生態系の修復に至るまで、特定の技術に偏らない「パスウェイ・ニュートラル」な立場を取り、幅広いmCDR技術の研究開発(R&D)を支援する。主な柱は、海洋大気庁(NOAA)における連邦mCDRプログラムの設立だ。これにより、炭素除去量の測定・報告・検証(MMRV)に関する厳格な基準が策定される見通しである。
さらに、航空宇宙局(NASA)の観測能力の活用や、国立標準技術研究所(NIST)による材料・データ・モデルの標準化も盛り込まれた。これらは、カーボンクレジットの「品質」を左右する「永続性」と「追加性」を担保するための不可欠なインフラとなる。
IPCCの報告によれば、2050年までのネットゼロ達成には、排出削減に加えて大規模な炭素除去が避けられない。地球表面の約7割を占め、世界の二酸化炭素排出量の約30%を吸収している海洋のポテンシャルは極めて高い。
本法案に対し、カーボン180(Carbon180)やカーボン・リムーバル・アライアンス(Carbon Removal Alliance)といった有力な業界団体が即座に支持を表明した。背景には、未整備だった海洋分野のルール形成を急ぐことで、民間資金を呼び込み、数兆円規模に成長すると予測される炭素除去カーボンクレジット市場での主導権を握る狙いがある。
法案が成立すれば、エネルギー省(DOE)と海洋大気庁(NOAA)が共同議長を務める跨庁作業部会が設置され、連邦レベルのmCDR研究計画が策定される。これまで、カーボンクレジット市場における海洋由来のプロジェクトは、環境への影響評価や測定の難しさから、森林由来などに比べて遅れをとってきた。
米国では、炭素除去関連の技術開発にすでに数百億ドル(約1.5兆円)規模の予算が投じられているが、海洋特化の法案により、沿岸部の雇用創出やインフラ整備がさらに加速する。また、2年ごとに発行される連邦mCDR報告書により、公的資金による研究成果や統治(ガバナンス)の進捗が透明化される予定だ。
今回の「ReSCUE法」は、海洋大国である日本にとっても極めて重要な先行指標となる。特に、測定・報告・検証(MMRV)の標準化は、将来的に日本企業がブルーカーボン等のカーボンクレジットを国際市場で取引する際の「共通言語」になる可能性が高い。海運・造船業や洋上風力発電に強みを持つ日本企業にとって、海洋炭素除去は新たな成長産業であり、米国との技術・規格連携を模索すべき段階に来ている。
