ヒューストン大学(University of Houston)やコロンビア大学(Columbia University)などの共同研究チームは、2026年2月、米国沿岸における電気化学的海洋炭素除去(e-mCDR)の導入ポテンシャルを評価した最新研究を発表した。
この調査では、既存の取水インフラを活用した5つの地域ハブを特定し、テキサス州やルイジアナ州を含む南部ハブが、大規模実装において最も高い適正を持つことが明らかになった。
「ハイブリッド方式」で海洋の吸収力を強化 既存インフラの転用が鍵
海洋は地球表面で最大の炭素吸収源であり、陸域や大気と比較して約6倍のCO2を蓄積する能力を持つ。今回の研究が焦点を当てたのは、海水のpHを操作して大気中CO2吸収を促進する「ハイブリッド型」のe-mCDR技術である。
本手法の最大の特徴は、発電所や海水淡水化施設、液化天然ガス(LNG)ターミナルといった、膨大な海水を取り扱う既存施設への併設(共置)を前提としている点にある 。調査対象となった38の沿岸施設は、地理的近接性に基づいて以下の5つのハブに分類された。

- 南部(South): テキサス州、ルイジアナ州
- 西部(West): カリフォルニア州
- 北東部(Northeast): ボストン、フィラデルフィア周辺
- 南東部(Southeast): フロリダ州周辺
- 北西部(Northwest): 北部カリフォルニア、オレゴン州
南部ハブが首位 安価な電力と水素インフラが後押し
多基準意思決定分析(MCDM)を用いた評価の結果、総合スコアで南部ハブが0.60を記録し、1位となった。これに西部と北東部が0.52で続く形となっている。
南部ハブが高評価を得た主な要因は、除去の「手頃さ」とインフラの充実度にある。研究データによれば、米国の沿岸施設の平均電力コストは1kWhあたり18.7セント(約28円)だが、南部地域は天然ガスや風力発電の恩恵を受け、電力コストを抑えることが可能である。さらに、テキサス州やルイジアナ州には大規模な水素パイプラインや貯蔵施設が既に存在しており、e-mCDRの副産物である「グリーン水素」の活用においても圧倒的な優位性を持つ。
定量的な除去ポテンシャルについては、ハイブリッド方式を用いることで、処理した海水1kgあたり2.3gのCO2を除去できると試算されている。エカティック(Equatic)社が開発するプロセスを例にとると、除去に必要な電力はCO2 1kgあたり総計2.5kWhだが、副生される水素のエネルギーを考慮した実質的な必要電力は1.5kWhまで低減される 。
海洋CDRの社会実装に向けた論点整理
本研究は、炭素除去能力(24%)、除去の経済性(23%)、電力網のクリーンさ(21%)を重要指標として重み付けを行っている。 西部ハブ(カリフォルニア州)は、最も高いCO2除去容量とクリーンエネルギーへのアクセスを誇る一方、電力コストの高さが経済的なボトルネックとなっている。一方、北西部ハブはLNGターミナルに依存しており、単一施設の稼働状況に左右されやすい「脆弱性」が課題として指摘された。
今後の展望として、研究チームは特定された有望ハブでの実証プロジェクトの早期開始を提唱している。また、米国の「Justice40(ジャスティス40)」イニシアチブに沿い、社会的・経済的に脆弱な地域への投資を通じて、環境正義と脱炭素化を両立させる必要性も強調されている。
今回の研究は、単なる技術論に留まらず「どこに建てるべきか」という実装上の解を示した点で画期的である。特に海水淡水化施設や発電所との共置モデルは、国土が狭く沿岸インフラが密集する日本にとっても極めて示唆に富む。
日本企業にとっては、水素インフラと組み合わせた南部ハブへの参画や、国内の海水淡水化プラントを「炭素吸収拠点」へと変貌させる技術提供に大きな商機があるだろう。
