パリ協定下のカーボンクレジット初発行 ミャンマーのクリーンクッキング事業で運用開始

村山 大翔

村山 大翔

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国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の監督機関は2026年2月26日、パリ協定第6条4項(A6.4)に基づく新たな国連炭素市場において、世界初となるカーボンクレジットの発行を承認した。対象となったのは、ミャンマー連邦共和国(ミャンマー)で展開されているクリーンな調理用コンロの普及プロジェクトだ。今回の発行は、長年設計段階にあったパリ協定下の市場メカニズムが、ついに実運用フェーズへ移行したことを象徴する歴史的な転換点となる。

承認されたプロジェクトは、有害な室内空気汚染を軽減し、地域の森林保護に寄与する高効率な調理用コンロを配布するものだ。この事業は、大韓民国(韓国)の認可を受けた事業体と連携して実施されている。

特筆すべきは、今回のカーボンクレジット発行に際し、かつての「クリーン開発メカニズム(CDM)」よりも厳格な算定基準が適用された点だ。最新の科学的知見に基づく保守的な計算式を導入した結果、発行量は旧来のシステムと比較して約40%削減された。これは、1トンの削減が名実ともに1トンの価値を持つという「環境整合性」を担保するための措置である。

今回発行されるカーボンクレジットは、以下のように活用される計画だ。

  • 韓国側の活用
    韓国に譲渡される分は、韓国の排出量取引制度(KETS)で利用され、同国の国定貢献(NDC:国家の温室効果ガス削減目標)の達成に寄与する。
  • ミャンマー側の活用
    残りのカーボンクレジットは、ホスト国であるミャンマー自体のNDC達成のために使用される。

UNFCCCのサイモン・スティール事務局長は、「クリーンクッキングは20億人以上の健康を守り、森林を保護し、排出を削減する。このメカニズムが、人々の生活に真の変化をもたらす資金を供給できることを示した」と述べ、市場の透明性と信頼性への自信を強調した。

パリ協定第6条4項に基づく市場は、従来のボランタリー(任意型)市場や旧京都議定書下のCDMに代わる、より透明性の高い国際ルールとして策定が進められてきた。

現在、CDMからこの新メカニズムへの移行を待機しているプロジェクトは165件を超えている。これらは廃棄物管理、エネルギー、製造業、農業など多岐にわたり、複数の地域で同様のカーボンクレジット発行が続く見通しだ。承認にあたっては、ホスト国や利害関係者が不服を申し立てることができる14日間の異議申し立て期間が設けられており、プロセスの公正性が確保されている。

ついに「パリ協定品質」のカーボンクレジットが市場に供給され始めた。旧来のCDM比で発行量を4割削減するという「保守的算定」の断行は、グリーンウォッシュ批判に晒されてきた炭素市場にとって強力な信頼回復策となるだろう。日本企業にとっては、自国の「二国間クレジット制度(JCM)」とこの国連市場をどう使い分けるかが戦略の鍵となる。特に、サプライチェーン排出量の調整において、世界基準となるA6.4銘柄の価格動向(現在は1トンあたり数千円から1万円程度での推移が予測される)を注視する必要がある。

参考:https://unfccc.int/news/un-carbon-market-approves-first-ever-issuance-of-credits-under-the-paris-agreement” target=”_blank”>UN Climate Change