セブン・トレント(Severn Trent)、ユナイテッド・ユーティリティーズ(United Utilities)、ヨークシャー・ウォーター(Yorkshire Water)の英国水道大手3社は2026年1月15日、泥炭地再生に向けた民間資金パートナーシップに最大2,500万ポンド(約47億5,000万円)を投じると発表した。
ムアーズ・フォー・ザ・フューチャー・パートナーシップ(Moors for the Future Partnership)が主導する5カ年計画「ムア・レジリエンス2030(Moor Resilience 2030)」の一環として、英国最大級の炭素貯蔵庫である泥炭地の保全を加速させる。
本プロジェクトは、シェフィールドやバクストン、グロソップ、ハリファックス近郊のピーク・ディストリクトおよび南ペナイン山脈の湿原を対象としている。特筆すべきは、本資金が政府の補助金ではなく、水事業規制局(Ofwat:Office of Water Services)が規定する資産管理計画(AMP8)に基づいた民間投資である点だ。これにより、泥炭地という「自然資本」が、水道事業における重要なインフラ資産として正式に組み込まれたことを意味している。
泥炭地は世界的に希少なブランケット湿原を含み、全世界の炭素の5億8,000万トンを貯蔵する極めて重要な炭素吸収源である。英国においては国内最大の炭素貯蔵庫であり、全排出量の20年分に相当するCO2を固定している。今回の投資を通じて、劣化した泥炭地を再生し、炭素固定能力の向上とともに、水質の改善や山火事への耐性強化、洪水リスクの低減を目指す。
ムアーズ・フォー・ザ・フューチャー・パートナーシップのマネージャーであるマット・スコット=キャンベル(Matt Scott-Campbell)氏は「自然が不可欠な国家インフラとして認識されたことで、かつてない規模の民間資金を確保できた。共通の価値観を持つパートナーシップは、自然再生とそれによる複数のコベネフィットを実現する費用対効果の高い手法である」と述べた。
また、ユナイテッド・ユーティリティーズの土地管理責任者であるジェームズ・エアトン(James Airton)氏は「より良い水質、生物多様性、そして自然に基づいた洪水管理への投資は顧客と地域社会に利益をもたらす」と指摘。ヨークシャー・ウォーターのキャロル・プレントン(Carol Prenton)氏も「自然インフラへの過去最大の投資であり、炭素回収能力の向上などさらなる恩恵をもたらすだろう」と期待を寄せた。
本投資は請負業者や関連サービスの雇用を通じて地域経済にも貢献し、土地所有者や農家にとっての長期的なビジネス成長の機会となる。今後5年間の実施期間において、科学的な根拠に基づいた保全作業が進められ、定期的にその成果が報告される予定となっている。
本ニュースは、カーボンクレジットやCDRの文脈において、自然資本が単なる「環境保護」の対象から「投資可能なインフラ」へと脱皮した象徴的な事例と言える。
これまで泥炭地再生は政府の補助金に依存する側面が強かったが、水道という公共性の高いインフラ企業が、自社の資産管理計画(AMP)の中に泥炭地保全を組み込んだ意味は大きい。これは、自然再生による「水質浄化」や「洪水抑制」といった生態系サービスを、物理的な浄水場建設と同等の経済的価値を持つインフラ投資として見なしたことを意味する。
今後、こうした「自然資本インフラ」への投資を通じて創出される高品質なCDRクレジットは、供給不足が続くカーボンマーケットにおいて極めて高い信頼性を得ることになるだろう。
日本企業においても、自社のバリューチェーンに関連する自然資本を特定し、それを「インフラ」として投資・管理する視点が、長期的なサステナビリティ戦略およびカーボンニュートラル達成の鍵となるはずだ。


