英国政府の独立レビューが提言 航空業界に「CDR義務化」求める新戦略「ネットゼロ航空義務」創設へ

村山 大翔

村山 大翔

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英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)が委託した「温室効果ガス除去(GGR)独立レビュー」が10月27日に公表され、航空業界に対し、炭素除去(CDR)による排出相殺を義務付ける新たな制度の導入を提言した。報告書を主導したアラン・ホワイトヘッド元議員は、政府に対し「ネットゼロ航空義務(Net Zero Aviation Mandate)」を設け、航空会社が直接的に認証済みのCDRプロジェクトへ資金を拠出する仕組みを整備するよう求めた。

この提案では、2030年までに持続可能な航空燃料(SAF)を10%導入する既存政策を改定し、CDRクレジットを購入した航空会社にはSAF使用比率を柔軟に減らす選択肢を認める。ホワイトヘッド氏は「排出者が最終的な責任を負う『汚染者負担の原則』を航空業界にも適用すべきだ」と述べ、長距離便など排出削減が困難な分野での除去投資を促した。

英国では航空が2050年時点で最大の残余排出源になると予測されている。空港拡張が続くなか、同レビューは「航空需要の抑制は政治的に現実的でない」とし、CDR導入の必要性を明確に位置づけた。

報告書は全体で約200ページに及び、航空に限らず英国全体のGGR体制再構築を提言している。主な柱は以下の通りだ。

  • 国家温室効果ガス除去戦略(National GGR Strategy)の策定
    2030年代のカーボンバジェットに合わせ、どの技術をどの規模で導入すべきかを明示する。
  • 温室効果ガス除去庁(Office for GGR)の新設
    エネルギー、農業、運輸など複数省庁に分散する政策を統合。
  • 輸入バイオマスへの依存縮小
    ドラッグス社などの大規模輸入型BECCS支援を見直し、国内の農業残渣などを優先。
  • 廃棄物発電+CCS(WECCS)支援の拡充
    ハイネット(HyNet)クラスター内のプロトス発電所を先行例として、非パイプライン輸送(船舶・鉄道・トラック)によるCO2回収網の整備を提言。

カーボンキャプチャー・ストレージ協会(CCSA)は報告を歓迎し、「GGR技術は、脱炭素産業と低炭素エネルギー供給を支える不可欠な要素だ。英国は豊富なCO2貯留能力と先進的な技術基盤を活かし、高信頼度の炭素除去市場をリードできる」と声明を出した。

一方でレビューは、バイオマス燃焼に依存するBECCSについて慎重な姿勢を示した。輸入ペレット燃料を主とする大規模発電は「持続性に乏しく、将来的なクリーン電源としての貢献は限定的」と指摘し、政策支援の段階的縮小を求めた。

報告書は「GGR市場の成長は英国経済に新たな雇用と輸出機会をもたらす」と強調し、CO2地中貯留サービスを国際市場に輸出する「炭素除去ハブ国家」構想を掲げた。世界ではすでに約1,000万トン分のGGRクレジットが取引されており、英国が早期に制度基盤を整備すれば「国際的な高信頼CDR供給国」として主導的地位を築けると結論づけた。

参考:https://assets.publishing.service.gov.uk/media/68f8d27a0794bb80118bb764/independent-review-of-ggr.pdf