英国の政府系投資機関が5カ年戦略を発表 CCUS・CO2除去の脱炭素やエネルギー事業などに「1000億ポンド」を動員

村山 大翔

村山 大翔

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英国の政府系投資機関であるナショナル・ウェルス・ファンド(National Wealth Fund(NWF))は1月28日、2030/31年度までにクリーンエネルギーおよび経済成長へ向けて1,000億ポンド(約21兆1,500億円)以上の投資を動員する「5カ年戦略計画」を公表した。

同基金は、炭素回収・利用・貯留(Carbon Capture, Usage and Storage(CCUS))やグリーン水素など、炭素除去(CDR)の基盤となる10の重要セクターを優先投資対象に指定。公的資金を「呼び水」として民間投資を最大化し、2050年までに5億トンのCO2排出削減と20万人の雇用創出を目指す。

今回の戦略は、2024年10月に英国インフラ銀行(UK Infrastructure Bank)から改称・再編されて以来、初の本格的な長期指針となる。NWFの最高経営責任者(CEO)であるオリバー・ホルボーン(Oliver Holbourn)氏は、「政府の成長およびクリーンエネルギー・ミッションに焦点を当て、民間資本を強力に呼び込むことで、英国の未来を切り拓く」と述べ、納税者への利益還元を維持しつつ、リスクの高い革新的なプロジェクトに資金を投じる姿勢を強調した。

計画の柱となるのは、278億ポンド(約5兆8,800億円)の総資本のうち、未投入の194億ポンド(約4兆1,000億円)を2031年までに戦略プロジェクトへ全額コミットすることである。NWFは、政府資金1ポンドに対して約3ポンドの民間投資を誘致する目標を掲げており、すでに累計で170億ポンド(約3兆6,000億円)以上の民間資金を動員した実績を持つ。

特にCDR分野との関連が深いCCUSセクターにおいては、英国内の主要な産業クラスターである「ハイネット(HyNet)」や「イースト・コースト・クラスター」の支援に注力する。

NWFは、不確実性の高い初期段階のプロジェクトに対し、融資や保証、さらには例外的な持分投資(エクイティ)を組み合わせた柔軟な資金提供を行う。これにより、商用化が困難だった大規模な炭素回収インフラの整備を加速させ、英国を世界のクリーン技術リーダーへと押し上げる考えだ。

また、地方自治体との連携強化も戦略の要となっている。「地域プロジェクト・アクセラレーター(Regional Project Accelerator)」を拡充し、各地域の脱炭素化計画に専門的な財務アドバイスや低コストの融資を提供。グレーター・マンチェスターやウェスト・ヨークシャーなどの主要都市圏と提携し、地域主導のクリーンエネルギー投資を促進する。

NWFは、2026年中に投資の効果を測定するための詳細な研究・評価戦略を策定する予定である。同基金による大規模な資金供給は、高コストな炭素除去技術の社会実装を後押しし、将来的なカーボンクレジット市場の供給力と信頼性を左右する重要な転換点となる。

今回のNWFの5カ年戦略は、単なるインフラ投資の枠を超え、英国が「炭素除去(CDR)のハブ」としての地位を確立しようとする強い意志の表れだ。

特に、民間投資家が二の足を踏む「政策リスク」や「技術リスク」を政府系銀行が肩代わりする姿勢を明確にした点は、ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)や将来的なコンプライアンス市場におけるクレジット供給の安定化に寄与するだろう。

投資対象としてCCUSや水素が明示されたことで、これらに関連するCO2除去クレジットの適格性や信頼性が政府の後押しを得る形となる。日本の事業者にとっても、英国のこうした「公的資金によるリスク低減モデル」は、国内のJ-クレジットやGX経済移行債の活用における重要なベンチマークになるはずだ。

次は、この1,000億ポンド規模の投資が、具体的にどのような基準でカーボンクレジットの創出に紐付けられるのか、その詳細な評価メトリクスの発表を注視する必要がある。

参考:https://www.nationalwealthfund.org.uk/media/ca1pvtjp/national-wealth-fund-five-year-strategic-plan.pdf